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飛剣跳刀
その他リレー小説 - ファンタジー

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飛剣跳刀 45

「そう、『五里迷宮』」
 芙蓉は答えた。
「それでその女も、あたしを見失ったみたい。でも、簡単に出てこられても面倒じゃない?だから、なるべく長いこと迷わせておくように細工してたら…」
「そのときに、城太郎の声がした、と。──少なくとも、そう聞こえる声が」
 飛衛は、察しがいい。…もっとも、あまり長い時間の出来事ではないから、それ以外ではつじつまが合わない。
「…だけど、そしたら今度はあいつが…」
「?まだ何かいるのか?」
「そうだわ!」
 芙蓉は飛衛の質問を無視して、手を叩いた。
「あいつ、琴みたいな楽器を持ってたはずよ!まだそのへんに転がってるかも」
「おい、何だと?琴…?」
 さっぱり分からぬ様子で芙蓉のいったことをオウム返しにしかけた飛衛が、そこでふっと考える顔になって、黙った。
 …実は、そういわれて、彼には思い当たるところがあったのだ。城太郎を捜している最中、一度は自分たちが後にしてきた夜営地の辺りから遠く、二度目はかなり近くから。そのときは、何かの自然現象の立てる音かと思っていたが…。
 そんなことを考えるうちに、先に走っていった芙蓉が、
「あった!」
 と声をあげる。
「城太郎の声と一緒にそんな音がした気もしたけど、あたしを追っかけて来たときには何も持ってなかったはずだと思ったら、やっぱり」
 芙蓉が指差したのを見て、飛衛がうなった。
「むむ…たしかにそれらしい楽器だが…」
 が、またすぐ首をふって、
「いや、それより気になるのは…芙蓉、あいつというのは誰だ。最初は女が笛をふいていたらしいといい、次はなんだと?こいつを誰が弾いていたと?どこの音楽家が群れをなしてやってきたんだ」
 最後のは、もちろん冗談だが。
「さあね、とにかく、これを弾いていたのは黒い服をきた男よ。柳葉針にかすったはずだし、その後にも『骨喰い虫』をつけた『虎の爪』をお見舞いしてやったから、…いま、どうかしらね」
「おいおい」
 飛衛が、ぎょっとした顔で芙蓉を見る。
「一体、そいつが何をしたんだ。出会い頭に、いきなりそれだけをお見舞いしたのか?」
「べつに、何も…結果的にはね…何もしたうちには入りはしないけど。──でも、そうするしかなかったのよ!」
 芙蓉の口ぶりは、あまり本気で話しているようではない。が、眼の光は真剣だった。こんな眼をした人間が、ふざけた話をするということがあろうか?芙蓉の口調が少し駄々をこねるようなのは、むしろ自分らしくなく真剣になっていることへの照れ隠しだ。
「先生だって知ってるはずよ。何もしなくても殺気を放ってるやつが、本気でかかってきたらどうなるか」
「それは、分からんでもないが」
 飛衛とて、見知らぬやつにいきなり攻撃を仕掛けたいいわけとして、芙蓉がこんなことをいっているわけではないとは承知だ。いま「先生」といった口調でも分かるし、それより、芙蓉が飛衛にいいわけがましいことを口にすることなど、想像もつかない。
「そいつら、二人ともそうだった!だから、あいつらからやる気になる前に、どうしても度胆を抜いておくしかなかった」
「ほう、ほう」
 飛衛は、それを聞いて頷きつつ、自分も芙蓉の側へ…つまり、転がっている楽器の側へ近付いてきたが、突然、信じられない行動にでた。なんと、その楽器の弦をビィンと弾いたのだ!

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