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飛剣跳刀
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飛剣跳刀 47

 また、鉄筝の音が静寂をふるわした。…あらためて考えてみれば、これを何かの自然現象の音と考えるとは、それこそ不自然だ。草木ばかりのこの場所で、何がこんなに硬質な音をたてるというのだろう?
 笛の音が、高まった。しかも、そのわずか一息の間に、音の主は間近に迫っている。──音の間に、木々の中にちらりと白いものが閃いたし、それより、音が切れたのは、実にすぐ頭上であったのだ。
 月光。
 それに近い梢に、黒い人影がとまっていた。ただし人の形は黒いが、翻る白い衣の袖と裾は光を透かして、光そのものを纏うとすら見えた。 …こちらを、見下ろしているらしい。
 どうやら、隠れた意味はなかったようだ。と、見上げる二人の目に、人影が手にした何かが、燦然とはじいた光が飛込んできた。
 だが、二人の反応をいえば、それを目にするよりもわずかに早い。
 飛衛は、顎でとめていた笠の紐をぷつと指で切ると、人影めがけて投げあげた。それは飛鳥ででもあるかのように、まっすぐに空をきる。
 芙蓉のほうは、一瞬に身を潜めていた茂みから飛び出す。開けた、自分にとっては足場のよい場所を確保すると同時に、相手が着地しやすい位置を奪ってしまったのだ。
 うなりすら発する勢いで、飛衛の笠が白衣の人物に迫ったとき、そいつは、梢を蹴って宙に躍った。
 それを、いま投げた笠の向こうに見て、
「おおっ!」
 飛衛は声をあげた。この場合に、驚愕よりも感嘆に近い。──身ごなしからも、また芙蓉の話から判断するにも、もはや女と明らかな人影は、足元に迫った笠のふちにひらりと片足をかけると、そのまま前へとびだしたのだ!
 飛衛の驚嘆も無理はない…と いいたいところだが、現実問題としてそれどころではなかった。
 梢を蹴り、笠を足掛かりにして、滑るように空を進んだ女の躰がやっと落下の方向へうつったとき、彼女はくるりと身をかえして自ら頭を下にした。その体勢で彼女は片手を翻し、夜空の星に似たものを、二人の頭上に降らせてきたのだ。
「暗器よ!」
 芙蓉の叫びは、おそらく、それがまさに自分が説明したものだといいかけて、省略したのだろう。叫ぶと同時に、彼女自身も空中へ向けて繊手を払っている。その手には直接触れない空間で、チリリリ…と微かな音をたて、白銀の、ごく薄い金属片が四方へ飛散した。
「なるほど、これか」
 と、飛衛のほうも落ち着いている。降ってきたというには剄烈な勢いで頭上に迫ったそれを、振り回したマントに吸い込ませると、それはポイと放って、芙蓉に言葉を返した。
「それよりこの姫君、物騒なものをお持ちだぞ」
 そのとおり、女は右手に長剣を持っている。さっき樹上できらめいたのも、これだ。
「知ってる」
 余計なお世話だという口調で、芙蓉が返してくる。 女は──むろん燕雪衣であったが──、内心首を捻った。つい先程見た少女のほうが妙な技を心得ているのは、知っている。だから、今の余裕がどこから生じたのか、それも解った。だが、男のほうは?まさか、こちらも似たり寄ったりの妖術つかいだろうか?
 もっとも、思考は表に出ない。飛衛と芙蓉がみたのは、暗器を飛ばした女が再び身を捻って、今度は足を下にしつつ、これも下方へ向けて稲妻のごとく剣の一閃をくれたところであった。…どちらへ?
 ──飛衛のほうへ!

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