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飛剣跳刀
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飛剣跳刀 44

「城太郎…!」
 用心を忘れたわけではない。ただ、用心しなければいけない相手がうろついているから、あの間の抜けた人物が心配なのだ。
「城…」
 また、声を忍ばせて呼んだとき、
「なんだ」
 と、いらえがあった。ただし、声は呼んだ人物のものではなく。
「…芙蓉ではないか。そのぶんだと、ふん、機嫌を直したか?」
 なんだか、余計なことまでいう。…飛衛の他にない。
「いま、城太郎を呼んでいたな?」
 ガサガサと草木をかきわけて芙蓉の前にぬぅと出てくると、
「城太郎なら、お前を追っかけていったはずだがな。なんだ、出会っておらんのか?」
「いうことが余計」
 むっとした顔で、芙蓉がいい返す。
 飛衛はにやにやしたが、大人げなくからかうことは、さすがにしなかった。第一、その飛衛自身が城太郎を捜しているのだから、他人をからかって遊んでいる場合ではない。
「おい、何のお祭り騒ぎだ?」
 そのかわり、そう別のことを訊く。
「好きで騒ぐ気分だと思うの?」
 また苛立ちがぶり返してきた芙蓉はつっけんどんにそういったが、これまた本気は半分で、内心はいくらかホッとしている。
 豪快で、というより悪くいえばいい加減な男だが、今までの〈変なの〉に比べれば随分マトモなのがありがたいほどなのだから。
 で、彼女は話し出した。
「…あたしがこっち、っていうのはこの湖のある方向に向かってたら、もちろん水の音もしたけど、その他に微かに音がしたの。それで…近付いて、脅かしてやろうと思ったの。だから、わざと大きな音を立ててやったわ」
 怪しすぎる状況に、彼女が用心するどころか自ら飛込んでいった理由。それを、飛衛は理解した。──この少女は聡明なくせ、時にむら気で、なるほど子供らしいという行動をするときがある。そのときは、その物音の主だろうが誰だろうが、とにかく八つ当たりでも何でも、苛立ちをぶつけたかったのだろう。
「で?それは何の音だった?」
 飛衛はそんな思考とは別に、あくまで現実的に訊く。
「笛の音」
 と、芙蓉は答える。
「けっこう聞けるものだったわ。吹いてるのがあんな奴じゃなかったらね」
「どんな奴」
「あの性悪女」
 自分だって他から見れば小悪魔みたいな所業は枚挙に暇がないはずが、それはすっかり棚の上だ。
「あっちがあたしに気付いたのも、予想外に早かった。まだ姿の見えないうちにその笛がふっと止んで…最初はこっちに気付いたせいだとも思わなかった。それくらい、まだ距離もあったし。でも、どうして止んだんだろうって考えるほどの間もなく、木の間から飛んできたものがあって」
「暗器か・・・」
 飛衛のつぶやきに、芙蓉がうなずく。
「すごく小さなもので・・・そうね、雪みたいに見えたわ。もちろん全部よけたけど・・・」
 悔しそうな表情を浮かべ、言葉を切る芙蓉。
「それに一瞬気を取られた隙に、もう目の前にいたのよ!あの女!!」
 芙蓉の声には、驚きというよりむしろ苛立ちがこもっていた。自分から仕掛けるつもりで近づいたのに、相手に先手を打たれた事への苛立ちだろう。
「だから、咄嗟に忍術を使うしかなかったのよ!」
「ふむ・・・やはりこの霧はお前の仕業か」

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