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飛剣跳刀
その他リレー小説 - ファンタジー

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飛剣跳刀 37

「でも、それ」
 城太郎のほうは、落ち着いたもの…というより、やはりいつものとおりの牛のような鈍さでもって、平然と、間延びした口をきく。
「あの、その剣、まだ鞘が…」
「ああっ!」
 娘は叫んで、慌てて剣を引き抜こうとするが、かえってあちこちでひっかかり、いたずらにガチャガチャと音をたてるばかりである。見かねて、
「俺、手伝おうか?」
 城太郎がいいだしたから、もちろん娘は呆気にとられた。
「…馬鹿…あんた、わかってるの?わたしは、あんたを刺すっていったのよ?」
「それは、だめだ。俺は芙蓉を探しに行かなきゃ…」
「は?」
 噛み合っていない会話に、娘は苛立ってきたようだが…当然だろう。
「あんた、何をいってるのよ、さっきから!」
 ようやく、剣身から鞘を振り落として、
「大人しくいうことを聞くのね!」
「何をしてほしいんだ?力になれるんなら…あ、でも先に芙蓉を探さないと」
「あんたの都合なんか聞いてない。死ぬか死なないか、どっちなの!」
 声を荒げる娘に、
「…無理だよ」
 城太郎がいう。娘は顔色を変えた。
「どういうことよ!」
「だって…」
 城太郎も、自分が口下手なのは分かっている。うまく伝えようと苦心しつつ、
「きみは、そんなに人を殺しなれてる感じじゃない。それに、…えっと、剣の持ち方もおかしいし、それに、…それに…だから、その、とにかく、俺を殺せないんじゃないかなぁ」
 …ものの見事に、逆効果をさそう台詞をはいてしまった。
 物もいわず、娘が斬りかかる。──が、その手を城太郎に掴まれた。剣が城太郎に届かないのはもちろん、娘はついでもう片方の手まで掴まれて、本格的に身動きとれなくなってしまった。
「放してよっ!」
 イライラした様子で、声を荒げる娘。城太郎の手から逃れようと体重を後ろにかけ、暴れる。
「いいよ」
「え?きゃあ!!」
 城太郎が言われた通りに手を放すと、娘は勢いあまって尻餅をついてしまった。
「あ!ごめん・・・平気か?」
 城太郎が手を差し出す。娘はその手を取らず、そのままの姿勢で、城太郎を見上げる。
「アンタこそ、アタマ大丈夫?」
 どこの世界に、自分を殺そうとする人間の言葉を聞いて相手を解放し、挙げ句の果てに相手に謝り心配するヤツがいるだろうか。
「俺は、頑丈だから。・・・先生にもよく言われるし」
先ほどの娘の問いに対する城太郎の返答だ。本人はいたって真面目なのだが、全く娘の意図を解していない。
「・・・変なヤツ」
 娘は呆れたようにつぶやき、笑って、城太郎の手を取り立ち上がった。
「それも、よく言われる」
「だろうね」
 娘は剣を鞘におさめた。
 城太郎はその様子を見て、とりあえずこの場は落ち着いたようだと判断する。
「あ、そーいえば」
「何よ?」
「どなたですか?」
 城太郎の性格を表すような間延びした質問に、娘は楽しそうに笑った。

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