PiPi's World 投稿小説

飛剣跳刀
その他リレー小説 - ファンタジー

の最初へ
 36
 38
の最後へ

飛剣跳刀 38

「ニルウィスよ。ニルウィス・ザターラン。…どうして、あんたに自己紹介なんてする気になったのかしら」
 後のほうは、溜め息混じりの独り言に近い。本当に、ここまで相手がくそ真面目だと、つられてしまうものなのだろうか?
「俺の方は──牙月城太郎。今、シャリビアからゼイムクに向かってる途中で…でも、とりあえず目指してるのはカハン国、ミン帝国で…」
 ここまでいって、ふと言葉を切った。ニルウィスの様子がおかしい。途中までは、ヘンな奴、と云いたげな視線を送ってきていたのに、突然顔を伏せてしまったのだ。
 肩が、こきざみに震えている。城太郎は、手を伸ばしかけて、またひっこめた。どうしたものか、全く判断がつかない。
 が、一方では芙蓉の安否が気にかかって、
「あのう…俺、芙蓉を探さなきゃいけないから行くけどさ、できるだけすぐ戻ってくるから…」
「いいわよ。行ってしまえば?」
 途中で、湿った声が叩き付けられる。
「でも…でも」
「何よ、うるさいわね」
「なんかさ、きみ心配だし。──そうだ、それに、なにかいいたいことがあったんだろ?」
 一瞬眉をしかめたニルウィスは、しばらくして思い当たった。
 ──どうやら、さっき剣で「いうことを聞くのね」と脅しつけたことらしい。
「もう、いいわよ!」
「だったらどうして泣くんだよ…」
「あんたに関係ない!」
「でもさ、困ってるみたいだし」
 ニルウィスが最初泣けてきたのは、城太郎がカハン国、ミン帝国といったのに、殺されたノイジンや、商隊の面々を思い出したからだった。そして一度涙が出だすと、今度はおそろしく鈍い相手に軽くいなされ、心配までされている状態が悔しいのと惨めなのとで、歯止めがきかなくなってしまったのである。
「な、芙蓉見付けたらすぐ帰るし…そしたら、絶対力になってやる。それなら、俺一人よりはいろいろいい案も出ると思うから。…あいつ、すごく頭がいいんだ」
 城太郎のほうは誠心誠意の権化みたいに真剣な声であり、顔であり──ニルウィスは、また違う意味で目の奥が熱くなってくるのを感じた。城太郎が背を向けて駆け出しかけるのを、
「まって」
 と呼びとめる。「あなたが探しているのは、白い服を着た、すごく可愛い娘さん…違う?」
 人物像を掴みやすいとはいえない表現だが、城太郎は喜色満面で頷いた。
「そうだよ!」
「それなら…彼女は、この霧の中よ。わたしの師父と、出会いがしらに闘い出して、その子が何か湖に投げつけたとたんこの霧が広がりだして…」
「湖…水の音が聞こえると思ったら、やっぱりあったんだ。…で、なんだっけ、きみの師父?」
「そう」
 ニルウィスは頷き、急にはっとした顔になった。
「あなた、筝の音を聞かなかった?それとも、黒衣の男を見掛けたりは…?」
 城太郎は、彼女のいいたいことを理解しようと努めたが、やがて首をふった。
「分からないよ…」
 何の事はない、今の場合、ニルウィスの方が興奮していたのである。

SNSでこの小説を紹介

ファンタジーの他のリレー小説

こちらから小説を探す