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飛剣跳刀
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飛剣跳刀 36


 先に走っていった城太郎が、消えた理由や如何に。──
 彼も同じく、行く手を濃い霧に阻まれた。忍者たるのは、彼も芙蓉と同様ながら、忍法のほうの才は雲泥の差、月とスッポン。この霧が忍法と分かったことは分かったが、それ以上どうしようもない。
 で、立ち止まった。馬鹿の阿呆のといっても、その種類は様々だが、彼についていえば、自分の実力をわきまえぬ種類のそれでないのは確かだった。
 それで、しばし考えた挙句、彼は霧にそってそのぐるりを歩き出した。こんなことなら忍者でない子供でもできる。…情けない。
 もっとも、忍法はからきしながら、城太郎も五感は常人以上に鍛えてある。むしろ、忍法に関してはさっぱり報われなかった努力が、こちらには素直に報われた結果を見せていた。──要するに、根本的な、徹頭徹尾の凡人だ。
 その、人並み以上どころか、忍者標準でも鋭い部類の聴覚が、やがてかすかな音を捉えた。霧の中からではない。…ということは芙蓉ではないし、それより、芙蓉のたてるような音ではなかった。
 息遣い。女のものだ。緊張しているように聞こえる。伏兵であってはまずいと考えて、城太郎はそちらへ向かった。
 が、近付きつつ、さすがに考え深いとはいえない彼にも、ある疑問が浮かんできた。…伏兵なら、こんな場所に、一人でいるものだろうか?…なら、ひょっとして、パーティの誰かがここまで入り込み、突如出現した異様な霧に腰をぬかしているとか?
 足音を忍ばせたのは、こちらの用心よりむしろ相手を驚かさぬためだ。…なのに、この種の細かい作業が苦手な──というより、単純に鈍くてどんくさいのが城太郎だから、ほどなく枯れ枝を踏んづけて自滅したが。
 女が、はっと息をのんだのが聞こえた。
 だんまりを決め込んでは、相手を余計に怪しませるだけかもしれない、と城太郎は考えた。
「あのう…どなたですか…?」
 こんな場合に、間の抜けた質問をする。
「あの、俺、別に怪しい者じゃなくて…」
 相手を驚かさぬように気を使っている…はずが、彼の口から出ればこんな気のきかない台詞になる。
「一緒のパーティの人ですか?…」
 なおも声をかけつつ、城太郎は近付いてゆく。と、…ザザザッと茂みがゆれて、目の前に棒のような長いものが突き出された。
「動かないで!声を出すのも駄目!さもないと刺すわ」
 波打った栗色の髪が乱れて、夜空を映したような青い瞳は異常なほど張りつめた光をたたえて、見開かれている。白い、整った顔は憔悴して青ざめ、そのせいで彼女を人間離れしたような、狂気の妖精じみて見せていた。
 突き出されたものを城太郎がみれば、一振りの剣である。
「あの…?」
 この事態をどう把握すべきか迷った城太郎がいう。
「口を…口を、きかないでって…いってるでしょ!」
 脅しつけているにしてはわななく声で、娘──女、といってしまうには若すぎるように見える──がまた剣をつきつける。

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