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飛剣跳刀
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飛剣跳刀 34

 かわいた、くったくのない口調でいって、芙蓉は城太郎の手を肩からやんわりと外した。
「じゃ、ね」
 と、くるりと背を向け、…後ろざまに、柳葉型の針、柳葉針を放った。もちろんティンバロを狙ったものが、指が離れる前に飛衛の躰が跳んで、彼女の手首を捕まえたから、放つというよりただ落ちた格好になった。
「なにを…」
 怒りで頬を染めた芙蓉に、飛衛は笑いを含んでいった。
「おまえさんの理屈は、分からんでもない。一時の怒りではなく、冷静に、消しておいた方が今後のためになる、とその判断に基づいたわけだ」
「……」
「が、怒ってないといいたいがための、そりゃ屁理屈だろう?──それからもう一つ、こいつは、一応俺が雇ったんだぞ。一方、おまえは勝手に付いて来ているだけだろう。どう考えても、勝手な判断でどうかできる関係ではない」
 確かに、役に立っているかどうかは別として、ティンバロは飛衛らの雇った「道案内」であった。
「城太郎!」
 と、芙蓉は足をならす。ほとんど、駄々をこねる口ぶりだ。
「こいつ、あたしの邪魔するのよ!どうにかして!」
 城太郎が途方にくれたのはいうまでもない。
「それは…無理だ。だって、俺の先生だし…それに、先生のいってることは正しいと思うし…」
 やっと、考え込みつつ、それだけいった。芙蓉のほうはますますすねた。
「じゃああたしが悪いっていうの?もう、知らないっ!嫌い!来ないで!」
 いきなり、飛衛の手をふりはらうと、木の茂ったオアシスの奥のほうに入っていってしまう。
「…芙蓉…」
 追い掛けかけた城太郎に、飛衛が声をかけた。
「まあ、待て。いま追い付いてもまた喧嘩だぞ。少し、放っておいた方が話も楽につく」
 城太郎は、その言葉にしばらく立ちつくしていたが、やがて地面に腰を下ろした。
「…先生」
 困惑しきった声で尋ねる。
「ん?」
「芙蓉、今日はどうしてあんなに怒ったんだろう?いつもは最後は冗談ですますのに」
「あのなぁ…」
 飛衛は苦笑して、
「俺とて女心を語れるような風流人ではないが…それでも、もう少し察せると思うがなあ。──疲れもしようが。あれでも可憐な少女にすぎん」
「そこでどうして親爺くさい批評をするんだよ」
 ティンバロが突っ込む。城太郎のほうは首をひねって、
「でも、俺は、全然…」
「…おまえさ、よくアホっていわれるだろ」
「あ、うん」
「おまえ自身が何度もそういったのを聞いた気がするがな」
 三者三様の言葉、示す実体はわかりきっている。
「おまえみたいな体力がとりえの奴と一緒にするな」
 それはさて置き。
 すでに、あたりは闇であった。
「どーやらこのあたり、虫だの賊だの出そうなんだがなぁ」
「旦那、嫌なことを思い出させてくれるなあ」
 ティンバロにとっちゃこれまでもあまり愉快な状況であったとはいいがたい。随分とその場限りの奴だ。

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