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飛剣跳刀
その他リレー小説 - ファンタジー

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飛剣跳刀 33

 頭に指で穴を開ける盗賊。頭に住み着くつもりらしい猛毒の砂蜘蛛。
「あ」
 ティンバロはわかった顔をして、
「なるほど、盗賊だか何だかが手を伸ばしてきても、こいつで見事逆襲」
「そういうこと。…ただし」
 芙蓉の好意を信じかけたティンバロは、ものの見事に騙されていたことを悟った。
「そいつが頭を狙うんならね。胸に穴を開けられることもあるんだし」
 わざわざいい気にさせてからまた落ち込ませるとは、恐ろしくいい性根だ。しかも、非常事態をはしゃぐ気のない人間に対してそれをするとは。
「なるほど」
 と、ティンバロはこのときあえて自分を抑えて、皮肉った──多少こわばってもいたが──笑みを浮かべた。
「あんたみたいなのを、小悪魔っていうんだな?きれーなカオで男を騙して…」
 殊更に顔を誉めて、大袈裟なことをいったのは、芙蓉がこんな言葉や内容に意外なくらい初心なのをこの数ヶ月で承知しているからで…つまりは、ちょっとした意趣がえしのつもりだ。
 案の定、芙蓉は半分まで聞いたところで顔を真っ赤にした。そして、あろうことか、例の「骨喰い虫」とやらのついた爪で掴みかかってきたのである。
「げっ」
 ティンバロは、芙蓉を怒らせたことより、その指にはまっていた武器を忘れていたことを後悔した。身を翻して逃げかけたが、その鼻先に、宙でとんぼをきった芙蓉が着地する。
「…盗賊が襲ってくるかどうかは分からないけど」
 手を振り上げた。
「とりあえず、あんただけ先に死んどく?」
 どうやら、本気らしい。しかも、下手に弁解するといっそう危ない相手だ。
「芙蓉…」
 と、そのとき運よく声がかかった。
「やめろよ、な?あいつ、ちょっとからかうだけのつもりだったんだよ。だから、そんなに怒るなって」
「…あいつ、あたしがからかわれるの嫌いだって知っててからかってるのよ」
 と、止めに入った城太郎まで睨みつけて、芙蓉が口を尖らす。
「城太郎は黙ってて」
 しかし、城太郎は引きさがるどころか、芙蓉の傍らにまで近付いて、肩に手をかける。
「…でもさ、あいつのいったこと、全部が全部、嘘でもないし」
「何がよ?」
「おまえが、綺麗だって」
 飛衛がこらえきれなくなって顔を背け、肩を震わせている。もちろん爆笑したいのを噛み殺しているのだが、城太郎のほうはそれが哀れなくらいの大真面目だ。
「・・・!!」
 言葉を失い、あっという間に真っ赤になる芙蓉。
「だから、そんなに怒るなって」
 城太郎の間延びした声が更に続ける。
 ・・・これで、この場はおさまるかのように思えた。しかし。
「なんだかんだ言ってても、結局は『恋する乙女』ってわけか」
 ティンバロの独り言のようなつぶやきが、芙蓉の耳に届いてしまった。
 ティンバロとしては、ただ素直に感想を述べただけで、からかいの意はなかった。だが、芙蓉にとって、そんなことは関係ない。
「城太郎、分かったわ。もう怒らないわ」

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