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飛剣跳刀
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飛剣跳刀 32

 すい、と芙蓉の手が動いた。注意していなければほとんど気付かぬほど滑らかで自然な動作だ。ところが、一度そうして腰に結んだ布へ伸び、再び上がった手には、全ての指に鋭く尖った爪様の武器がはまっていたのである。
「これに『骨喰い虫』を仕込んで頭をつかめば、だいたいこれと同じ穴が空くわね…」
 と、そこまでいった芙蓉が、ちょっと考える顔になった。
「…やっぱり、おかしいわ。『骨喰い虫』みたいに毒だったら、こんな綺麗な穴が空くかしら。しかも、生きている状態で毒に当たって、穴の縁はもっと凸凹してるはずよ」
「謎は多いが…」
 と、飛衛はまだ首を捻りながら、
「ともかくも、見付かった数からすれば、自然死や病死というのは考えられんな」
「なぁ…訊きたくないんだけどな、…」
 ティンバロが恐る恐るというふうに芙蓉に声をかける。
「そいつらってさあ、身ひとつ…?」
「いいえ、って答えてほしいんでしょ?ざんねーん」
 やっぱり、というふうにティンバロの肩が落ち込む。
「布切れ巻き付けてた骸骨はあったけどね。値のはりそうなものなんて、カケラも残っちゃいないわ。どう?参考になった?」
 芙蓉の口調は、明らかに面白がっている。ただし、飛衛のように事態そのものをではなく、それによる他人の狼狽ぶりを。
 それに気付いたティンバロが、芙蓉相手に珍しく気を損ねて、
「すてきな休憩場所を見付けてくれたな」
 多少の皮肉をこめていう。
「誰もあんたに休めとはいってないわ。嫌なら出ていけば」
 芙蓉も負けじといい放つ。そこで
「なあ、喧嘩しても仕方ないだろ」
 城太郎が割って入ったのはいいが、
「じゃ、どうすればいいと思う?」
 芙蓉に訊かれた返事は正に彼としかいいようのないものであった。
「…みんなで考えればなんとかなるよ」
 突っ込む気力も失せたらしい、ティンバロはゲンナリとして、頭に手をやったきり口を開かない。
「それで、芙蓉。その骸骨どもをどうしてある?」
「他のやつが見付けちゃうるさいでしょ?それで盗賊を引き寄せかねないと思って、目に止まりにくい茂みの奥に蹴込んでおいたわ」
「ふん…なら、その問題はいいとして」
 飛衛は頷く。
 それはさておき、芙蓉はさっきはっきり盗賊と口にした。──ティンバロは己の予想がただ一人の気の回しすぎでもないことを知った。
 お先まっくらな思考にはまり込んでいたティンバロが我に返ったのは、頭にやった手に感じたモゾモゾする感触のためだ。
「わっ」
 またしても跳び上がるティンバロに、飛衛がニヤニヤ笑いを向けた。
「ほおぅ、これはまた、随分となつかれたな」
「なついてなんざいらねぇってんだよ!」
「へぇ〜、いいもの飼ってるじゃない」
 騒ぐティンバロに、芙蓉までが横から茶化す。
「ふざけるな」
「真面目な意見よ。…いい、どんな毒だか技だか知らないけど、頭に指で穴を開ける盗賊がでるのよ。これがヒント。…わかった?」

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