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飛剣跳刀
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飛剣跳刀 31

 飛衛の、髑髏をひっ掴んでいる指は、後頭部、なんのひっかかりもないはずのところに、第二関節あたりまで入り込んでいる。
「この、仕掛けが」
 指を退けて見れば、はたして髑髏の後頭部には、五指がぴったり収まる穴がうがたれていた。
「先生」
 今の間にすぐそばまで来た城太郎もまじまじと見て、
「何ですか、その穴」
 濃い眉を寄せて訊いてきた。
「わからん」
 と、飛衛は無責任に首をひねって、
「とりあえず、指にぴったりだからな。誰かこの頭骸が豆腐であるがごとく…」
 何を馬鹿な、という呆れた表情で、ティンバロが飛衛を見る。飛衛も見返して、
「ばか。冗談だ」
 ただ城太郎だけは真剣に、
「でも、先生…指以外で、どうしてこんな穴が…?」
 首を傾げ、難しい顔をして考えている。
「さあ〜?」
 と、不真面目な返事で弟子を誤魔化した飛衛だが、二つも出現した怪事を面白がりつつ、
「そういうことだ。ヘンな事が多いときは、なるべく固まっていた方がよかろう」
 それくらいのことは考える。もちろん、パーティの他の連中を放っておくわけにゆかぬ理由のことだ。
 ──ところが。その決断、はたして正しいものであったのか…?
 オアシスに着いた一行を、
「たったあんだけの距離を、遅いんだから。なんの道草くってたの?」
 と芙蓉が迎えたから、
「こういうことだ」
 飛衛が、相変わらず手に持っていた髑髏を突き出した。
「なにそれ」
 芙蓉はそれを眺めて、すぐに五つの穴に気付くと、
「ああ、それね」
 大して驚く風もなくいってのけた。かえって突き出したほうが驚いて、
「それ…だと?」
「ええ。だって、さっきそこの草むらにも、あっちの茂みにも見付けたもの」
 無言で、飛衛とティンバロが顔を見合わせる。
「どれだけだ?」
 やっと、そう訊いたのは数のことである。
「見付かったのは、ざっと十二、三かしら。センセの見付けたのは頭だけ?こっちのは、ほとんどのが全身くっついてたわ。…もっとも、頭に穴のあるやつだけじゃなくて、左胸の肋骨が折れてるのもあったけど」
 芙蓉の報告は、しっかりしたものだ。
「やっぱり、こう…人の指がぴったりはまるのか、その穴は?」
「多分ね。あたしの指じゃ無理だけど、同じ感じに空いてたと思う」

「なあ」
 城太郎が口を挟む。この深刻な問答を邪魔する気かと疑わせるほどのんびりした声だが、彼自身には、もちろん悪気はない。
「じゃあさ、これはやっぱり指で空けた穴だと思う?」
 ティンバロが、まだ言うかと呆れた顔をしたが、意外にも、芙蓉のほうはにっこりと微笑むと、
「不可能じゃないわ」
 そう、いってのけたのである。
「飯賀の忍法に『骨喰い虫』ってあってね。普通、武器に塗ったりする毒なんだけど、入った場所から毒が染み込むの。骨についたらそこがぼろぼろに溶けて、絶対に治らない」

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