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飛剣跳刀
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飛剣跳刀 27

「ふん」
 と、芙蓉は笑ったようだ。その手で、ティンバロの足に絡み付いた目に見えぬほどの糸らしいものを引いて戻した。
「余計な口を叩くから、転んだりするのよ」
 自分が転ばせたのなど知らぬ顔、さも自業自得みたいな言い方をすると、
「城太郎、ありがと」
 別方向に嫣然と花の微笑を投げる。そして、今度こそ間違いなく差し出された城太郎の手を借りて、駱駝の上に軽々と躍り上がった。
 夕暮れ…その残照に、白い服が映えて、翻る。彼女は、駱駝の背に二本の足で立っているのである。その人ばなれした身軽さといい、白く翻る何処風ともつかぬ衣服といい、さらに光に透ける小柄でしなやかな、均整のとれた姿体といい…幾度見ても、幻のような美しさだ。
 これで、悪魔のような頭脳と気性でなかったら──とは、ティンバロならずとも思うところであろう。
 ところで、彼女の纏うのは、何処風ともつかぬとはいったものの、一番似ているのは砂漠のオアシスを巡って生活する流浪の民の装束だろう。多少の違いは、彼等の物にはうるさいほどについている装飾が、芙蓉のものにはほとんどついていない点で、あとはフードのように頭を覆う部分があるのもそっくりだ。
 それに、日差しの強い日中は市女笠のように布を垂らした笠をつけている。そのヒノモト文化が、ここで意外に快適らしい。
 笠といえば、もとより飛衛も深編笠持参だし、城太郎にも、芙蓉が手先も器用に似たものを編んでやっている。けっこう便利だと思ったティンバロが聞えよがしに日差しが暑いとぼやけば、「じゃ死ねば?」と冗談でもなさそうな一言が返ってきた。幸い、それに横から城太郎が「じゃあ、俺のを貸してやる」と人のいいことをいって、「それくらいならあたし作るわよ」ということになり…ただし見場の随分違うものを編んでくれたが。
 まあ、それも日の落ちたいま、飛衛を除いて脱いでいる。
 それで、駱駝の上に立った芙蓉はパッとフードを簡単に払い除けた。黒髪が、さあっと風に舞う。
 しばらく、小手をかざしてあちこち眺めていたが、一ヶ所でやや目を凝らすようにした後、筒にした両手を縦に重ねて、両端を舌でなめると、
「忍法、掌中有千里(掌の中に千里有り)」
 小さく、呟いた。それを眼にあてて、
「あった!」
 喜々とした声をあげた。

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