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飛剣跳刀
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飛剣跳刀 26

「ええい、分からん奴だな。いいか、お前の主は誰だ?わかっているなら、行って旦那様の仇を…いや、その前にお嬢様をお救いしないかっ!」
「あ、は…はいっ」
 幾度目かの叱咤で、やっとそいつも立ち上がって、──
 そのまま、硬直した。
「どうした、…」
 いいかけたマルゼロの声も、凍った。背後から、黒く影がさしている。その、手の部分が持ち上がる。五指を、鈎のように曲げて!
 絶叫が響いた。女のほうへ走っていた数人が振り向いたが、その理由を知ることはできなかった。
 視覚が「そいつ」を捉える前に、命がなくなっていたからだ。
 ある者は、風を切って迫ってきた黒い影にたじろいだ瞬間、頭に五つの孔をあけられた。別の奴は、背中に鈍い衝撃を感じただけで、訳の分からぬまま、心臓を引きずり出されていた。
 しかも、走っている前後にはほとんど関係なく──それほどに、凄まじい速さで。
 死の風にすら似て人間をほふり終えた男が、女の脇で静止した。
「雪衣、いつまで突っ立っている?殺る以外の用はないぞ。…むしろ、用なら荷駄にある。武芸の修練にすらならんかったろうが。ん?」
 話しつつ、呆然としたように立っている妻の視線の先に目をやった。
「…殺して、ないのか…?」
 男の呟きに、女は頷いた。
「なぜだ」
「きれいな娘、でしょう?父親やら用心棒やらが守ろうとするのも分かる気がする」
「だが用はない。始末してしまえ。面倒なだけだ」
「いや」
 女は首をふって、それから微かに笑顔のようなものを見せた。
「この娘は、私の弟子にする」
 男は、一瞬目を見開き、それから笑いだした。
「まあ、いいだろう、雪衣!楽しみだな、…親の仇の弟子として、その娘がどう育つか…!」

 月は、冲天。赤味は次第に引いて、徐々に白く、冴えざえと。冷たい月光にも、ただし地上の砂は紅のままであった。




「ねぇ〜、城太郎」
「んん?」
「手、貸して」
「こう?」
 城太郎が普通に差し出した手を、芙蓉は
「もう、馬鹿」
 と払って、
「違う!こう!駱駝にのぼるの!」
 自分で、組んだ両掌を上に向けて見せた。
「…自分であがれるくせに」
 ティンバロが呟いたのは聞かれないつもりだったのに、途端に足元を何かに掬われて、引っくり返る──というより半分投げ飛ばされるように背中から着地した。

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