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飛剣跳刀
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飛剣跳刀 25

 と、いうのも。着地して、ほんの二、三歩と歩かぬうちに、
「よせっ、やめてくれ!娘は…娘は…!」
 叫ぶというより、泣き喚くような声をあげて飛び出して来たやつがいたからだ。…いうまでもなくノイジンだが、慌てるあまり娘の居場所をもらしたことにも気付かぬのはとんだ失笑ものである。だが、必死なのは姿をみれば──いや、そもそも隠れ場所から様子を覗いてでもいたのだろうが、そこから飛び出して来たのでわかる。
 それを、女はキョトンとした、幼くすら見える表情で迎えた。もちろん、不意をつかれたわけではない。何か滑稽な、珍妙なものをみるような眼の色でもある。
「頼む、何でももっていけ、だから、娘ばかりは…」
 うわ言のようにいって、ノイジンはがばと彼女の足元に身を投げ出した。しばらく、女は奇妙な顔付きのままそれを眺めていたが、やおら興味のなくなったようにいい放った。
「丁度いい。それならお前の命を貰う」
 屠殺。
 そんな表現すらふさわしいほど無造作に、女の剣はノイジンの背を刺し通していた。
「…娘が、この中に?」
 呟いて、輿の残骸をのけはじめた。もともと、軽い造りであったから、その残骸も多くはなく、じきに鮮やかな女衣装、栗色の髪が除いた。…それから、月明かりに白い顔と。まだ気を失ったまま、長い睫は頬に影を落としていた。
 もっとも、月そのものはいまだ赤く、まがまがしくすらある色をしているが。
 ──遠くから、女がニルウィスを発見したのをみて、マルゼロが叫んだ。
「お嬢様に手を出すなっ、…何をしている、早く、早くいけっ!」
 あとのほうは、周りで彼に手を貸していた配下にいったのだが、いわれるまでもなく、大半はすでに女を追って駆け出している。
「いい、ゆけっ!しっ!」
 それでも立ち去らないやつには、もう一度、犬でも追い払うような声で叱咤した。
「しかし…お頭」
 ただ、困惑している連中にも、無理らしからぬところはあって、マルゼロはまだ──力も内力も入っていないとはいえ、内功の知識も薄いとあって、点穴が解けていないのである。それでも直接点かれた以外の場所には、何とか些かの力は入るようになってはいるのだが。
 この一幕の、女からみてさらに後方で、折しも男のほうが、向けられた得物の全てをひっ掴んでへし折り、その持ち主どもを地に這わせたとき。

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