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飛剣跳刀
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飛剣跳刀 24

 ふらついたまま、振り回した片手が女の長い袖に触れたを幸い、マルゼロはそれを絡めて、ぐいとひっぱり寄せる。
「そ…それ、お頭に続けっ」
 誰が叫んだか、一声のもと、残りの連中も掴みかかる。
「ちいっ!」
 女が舌打ちした。もとより両者の間には、距離はなきに等しいといってよかった。しかもマルゼロは、袖を捉えたばかりか、もう一方の手でやみくもに斬りかかってくる。
 もちろん、それを殺すのは簡単だが、そうすれば手を離させることが難しくなる。何より、──袖を捉えられたままそいつを殺せば、血がかかるではないか。…おそるべし、この時点で、女の白衣は、いまだ一点の汚れもない。
 ──女の振り下ろした剣は、柄のほうを先にして、どすっと背中辺りを打っただけだ。
 が、そうとはみえて、実は「巨骨穴」に点穴を施したのである。たちまち、マルゼロの全身が痺れて、力が抜けた。
 とっさの場合だから、内力は込めていないし、力そのものすらあまり入っていなかった。点穴というのは人体の「穴道」、ツボを「点」くことによって身体機能を操るのであるが、力を込めれば有効な期間も長くなり、加えて武術の流派ごとに違う内力など込めたら、通常なら自ら気をめぐらして解くことのできるものが、解けないどころか、下手に内功を使ったりすると再起不能になる。こんな点穴は、施した者にしか解けないのだ。
 ──が、ともかくも、女はマルゼロの手を逃れて、詰めかかる連中の、まず最初に伸ばしてきた手に刺突を送り、次には躰ごと回すような足払い、「地堂腿」で、砂塵もろとも脚を巻きあげ、転倒させた。仲間の引っくり返ったのでさらに脚をとられてもつれた一団を一瞥して、彼女はぱっと袖を翻すと、ひらりと軽くその上を躍り越える。想像を絶する身軽さ、これは軽功を駆使したのである。
 白衣の裾と長袖が、風をはらんで翻る。この場合でなければ飛天仙とみとれるに違いない。鷺のように舞い降りた先は輿のわずか数メートル横だ。
 もっとも──彼女は、標的がはっきりそこにいると知っていたわけではない。その証拠に、きょろきょろと視線が迷って、やや首を傾げる素振をみせた。音ひとつの手掛りも逃すまいと耳をすませているのだ。
 まあ、結果的にその必要もなかったのだが。

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