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飛剣跳刀
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飛剣跳刀 23

 女のほうは、もはや戦いから身をひき、口元を冷たく歪めて、どうやら夫らしい男の戦闘を眺めている。彼女が手を引いたからといって、私兵団のほうが「ハイそうですか」と見逃すわけでもないが、隙ありと襲いかかった数人がたちまち躰の数箇所から血を噴くはめになったのも見ているから、あえて斬りかかるのを見合わせているのだ。
「雪衣!」
 男が叫ぶ。
「商隊の親爺と娘だけ、先に殺ってしまえ!」
 男の叫んだ声はなれなれしく血に酔ったような響きすらあるが、女は何の感銘も興奮もない顔で、ただ聞こえたしるしには、視線をすぅと巡らして、壊れてはいるが豪奢のなごりのある輿の残骸を認めると、すたすたとそちらへ歩き出した。
 もちろん、目と鼻の先に、攻撃を留めているとはいえ私兵団が槍襖刀襖で並んでいるのだが、女が近付くだけ、ジリジリと退がってゆきかけるのが不思議。
「退がるなっ!」
 声がとんだ。
 マルゼロである。
 ──長いようではあるが、最初銀笛が聞こえてきてから五分もたったかどうか。この間に立て続けに想像を絶したことがおこったのだから、判断力もどうかするのが当たり前で、マルゼロとて、一応けなげらしい対応はしていたものの、半分熱にうかされたようであったのが、いまようやくにして冷めてきたのだ。
「退くな」
 と、男をとり包んでいたほうから馳かえって、またいった。
「斬りかかるより、捕まえろ。なんとしても、ここを通すな!我らが主はノイジンさま、ニルウィスさまではないか」
 斬りかかるより、捕まえろ──というのは、その後になんとしても、といったとおり、こちらが斬られるのを覚悟の上でという意味ですらある。
 …が、それでなければ手におえぬ相手、と彼はそう判断した。
「邪魔だよ」
 女が唇の片端吊り上げた。
「そこを…お退きっ!」
 いい終らぬうちに手があがって、チリチリと涼やかな音と共に冰魄雪英が飛来する。それを避けるより、マルゼロは刀をあげて遮りつつ、逆に暗器の雨の中へ飛込んだ。
 ところが、これは女の誘いの手、それでガラ空きになったマルゼロの脇腹に一太刀くれると、さらにすれ違いざま、背にも斬りつけた。しかしマルゼロは革の胴着をつけているから、衝撃をうけてふらついたが、命に関わる傷にはならない。

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