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飛剣跳刀
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飛剣跳刀 20

 …俺の務めは、この女の喧嘩を受けて立つことか?──否!
「ロンド、グリシダ!旦那様をお守りしろ。俺はお嬢様を」
 左右の奴をつかまえて早口に囁くと、ニルウィスの輿へかけよった。 ニルウィスの顔は悪夢を見ているような表情を浮かべ、張り裂けそうなほどに見開かれた瞳は虚ろであった。
「お嬢様…」
 かけようとした声を、マルゼロはひっこめた。代りに、
「失敬」
 と当て身をくれた。
 下手に正気に戻すより、いっそ失神していたほうが精神の負担もかかるまい。また、賊を刺激する危険性も少ないに違いない。
 さらに、
「しっ!」
 輿を担いでいた者すら追い払ったのは、逃がすより隠すほうが成功の見込みがあるとふんで、その工作に念を入れるためである。
 力まかせに、輿を叩き壊して、その残骸をニルウィスにかぶせる。すぐそばでノイジンの護衛にまわっていたロンドらが感心した顔で眺めている。
 ノイジンは、こちらも半失神の態だが、さすがに娘よりもしゃんとしている。
「さっすがお頭、あたまがいい」
 喝采したロンドらも同じく彼を隠しにかかったが、こちらは失神させるまでではないと判断して、適当に荷物から引っ張り出した布切れを本人の協力のもとで物陰に伏せた躰の上につみあげる。
 ──その一方では、アザスにトガイ、リグスといった面々は、あとの数十人ともども、女と死闘を繰り広げていた。
 攻めようとすれば猛毒の暗器「冰魄雪英」を飛ばし、退こうとすれば「飛雪剣」を繰り出す、それが女の戦いかたであった。そればかりではない。
「暗器だよ!」
 聞えよがしに前の奴に向かって叫んだと思うと、させるかとそいつが薙いだ一閃を、地面と平行なまでに上体をのけぞらせてかわし、事のついでに真後ろの奴に刺突を放つ。
 また一人、喉に空いた穴から血をほとばしらせるのに動転する間に、更に雪英が飛ぶ。
 つまり、口に出すこともまるきりあてにならないのである。そのくせ、本当に暗器が飛来することさえあるのだから、始末におえない。
「加勢するぞ」
 荷を守るべきかと半ば迷いはあったが、このままでは屍が山のごとく積み上がってゆくばかりである。マルゼロ、ロンド、グリシダの順に、彼等は仲間のほうへとってかえしかけた。
「あっ、お頭!」
 逃げ腰の入っていた配下たちが、マルゼロの姿に気をとりなおしかけた。

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