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飛剣跳刀
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飛剣跳刀 19

 女の端正な美貌に、酷薄な笑みが浮かんだ。
「…わざわざ歯向かうとは、ふん、よっぽど生きているのが嫌になったね」
 すでに、筝の音色も途絶えている。こともなげに舐めた台詞をはいた女へ、白刃の輪は間合いを詰めてゆく。が、女は慌てるどころか、
「少しでも楽に死にたいなら、今のうちにその刀で自害するんだね。そうすればお互い、手間も省けようさ」
 淡々といってのける。
 もっとも、いい終るのと、マルゼロたちが殺到したのと、どちらが先かは判別しがたい。そしてまた、刀刃の落ちるより早く、女が背の長剣の柄を下から叩いたのがほぼ同時──鼓膜を裂くような音をたてて、剣身は沖天へ打ち出された。彼女は内力を送り込んで、鞘から剣を飛ばしたのだ。
 …が、彼女は忘れてはいまいか、それが落ちてくるのを待っていたら、湾刀を撥ね退けるのにもはや間に合うとは思われない。
 まさに、湾刀は遮るものなく女を襲った。もっとも、私兵団数十人、全く同時というのは絶対不可能で、このとき女のそばにいたのは十人がいいところ、その中にも多少の前後差はある。
 が…前にも後にも関わらず、女に届いた刀はなかった。刀の届くよりはやく、持ち主が絶命していたためである。最初の数人が、喉をならして倒れこんだ、その躰のあちこちに、雪片にすら見える微細な暗器が食い込んでいる。
 猛毒が塗ってあるのは明らかだが、理性でそう判断するよりほとんど反射的に、残りの連中はたたらを踏んだ。
 折しも──というべきか、それとももとからそのタイミングは測っていたのか──落ちてきた長剣はひらりと軽く跳躍した女の手におさまり、その躰がまだ宙にあるうちに、二閃三閃して剣尖に鮮血をはねあげた。またしても数人、手にした湾刀などないもののように倒れ伏す。腕の差はすでに明確であった。
 しかも。…気付いた者がどれだけいたろう、今の数瞬に、一度やんでいた筝の音色は、再び響きだして、今度は次第に近付いてきた。
 女が叫ぶ。
「リンロン!こいつら、お前さんに命をくれてやるつもりらしい!」
 返答のように、筝がひときわ激しくかき鳴らされた。
 マルゼロが我に返ったのは、その刹那であった。それまで、配下ともども女の剣法の隙を探りつつ攻撃の機をうかがっていたのだが。

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