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飛剣跳刀
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飛剣跳刀 17

 が、ややあって、
「見ろ…!」
 ノイジンの私設兵団の長、マルゼロがかすれた声をあげて、砂漠の向こう一点を指差した。いちはやく、彼の部下50人ほどがそちらを見やって、これも
「おおっ!」
 と叫んだ。
 砂漠の砂より白い姿が、マルゼロの指先はるかにあった。しかもその姿は、落ちかかる闇より黒い髪を嫋々となびかせ、風のように殺到してきたではないか!
 女だ。雪のように白い衣服を纏っている。長く艶やかな烏髪、ぞくりとするほど、凄愴なまでの妖しさを含んだ切長の双眸、その中にくるめく黒瞳。
 色があるようにみえるのは、ただ笛にあてられた唇と、鬢に挿された花だけだ。これは、紅玉すらあせるような紅。
 しかし、マルゼロたちの驚愕は、女の異装や、それでなお女が美しいことに対するものではなかった。
 音の発している方角を振り返る、その姿を認める…わずかそれだけの間に、女は闇の中ですら髪の一筋まで明白に見える位置にまで迫っていたのである。
「お、おまえは…?」
 これも私兵の一人、アザスが、訊くというより呟くように口にして、それでも行く手を遮るように、女の前に立ちはだかった。
 女も、ピタリと立ち止まる。両者の鼻先はわずか20センチほど…女の朱唇が、ほころんだ。
 すい、と笛を唇から離しているが、息は上がりも、乱れもしていなかった。
「ノイジン・ザターランの商隊だね?」
 女の顔を見たときから分かっていたが、言葉もやはりミン帝国の人間らしい訛りがある。
「そ…そうだが…?」
 対応に困ってアザスがしどろもどろで答える。
「お前たちは、雇われ者?それとも、ノイジンに忠誠でも誓っておいでかい?…まあ、どっちでもいい、命が惜しければ、とっとと失せるんだね」
「ふ…ふざけるなっ!」
 アザスが、腰の湾刀に手を掛ける。
「そこをどかないっていうなら、先に抜かしてやってもいいけどねぇ?他の衆は、どうなんだい?」
「この魔女めが!」
 女の言葉に逆上したアザスが、マルゼロの
「よせ!ただ者じゃない…」
 という叫びも耳に入らぬように刀を鞘走らせた。
 逆袈裟──流れた白刃のあとに、見ていた者は噴き上がる鮮血すら予測した。

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