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飛剣跳刀
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飛剣跳刀 16




 砂漠の東でとある一行がいよいよそこへ足を踏み入れたとき、ミン帝国からカハン国を通ってシャリビアへ帰ろうとする商隊もまた、同様に砂漠を横断し始めた。
 蒼天。烈日。白くすら見える黄砂の上を、二ヶ月ばかり。
「ニルウィス、ニルウィスや」
 この商隊の主であるノイジンが、愛娘に声をかけた。彼ほどの富豪となれば、この砂漠の中ですら、愛娘に何不自由なく過ごさせてやる準備が可能だ。
「なあに、お父さま」
 彼女が顔をのぞかせた、天蓋つきの輿もそのひとつだ。
「疲れやせんか」
「いやだ、わたしまだ若いのよ。それにこんなに気を使って貰っているのに疲れるなんて。まったく、日に何回そう聞くのかしら」
「いや、しかしなあ。…もう何日、オアシスを見ていないか…」
「そんなこと考えてるから、色々心配になって、疲れるのよ。もうちょっと、気を楽にしなきゃ」
 砂漠の日は暮れかかって、遠い砂煙に、空の紅と紫がけぶるようだ。「ほら、あの空を見て。すごく綺麗だわ。それに、ここじゃないと見れなかったと思うの。砂漠も、気苦労と心配ばっかりする場所じゃないわ」
 微笑んだ白い顔を縁どるように、夕陽の色が映っている。
「ふむ、たしかに…」
 同意しつつ、ノイジンは心中娘に礼をいった。
「わたし、砂漠の夜も好きだわ。月の出る夜は特に。…少し、寒いけど」
「ああ。…」
 ノイジンは、確かに美しい夕景を眺めつつ、頷いた。
「今夜は、晴れそうだな」
 もうしばらくすれば、月が上るだろう。出た直後は赤みを帯びて、それから徐々に、白く冴えざえと…。
 まさか、その白い月を見ることが永遠になくなるとは、夢にも思っていなかった。
 ──いつから、その音が聞え出したのであろう。
 誰にも、分からなかった。余りに遠く、余りに微かに聞え出した音だったからだ。
 ただし、徐々に近く、確かになってきたその音は、ミン帝国にしばらく暮らした身には馴染みがあった。
「笛(てき)…」
 横笛である。音色は高く、柔らかく、澄んでいる。心を震わすような響きであった。
 商隊そのものがしぃんと静まりかえったのは、その美しさのためといってよい。

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