姫になれないなら、獣にしかなれないのなら、いっそ悪魔になろうと。
堕ちてしまえば、楽になれる。
望まなければ、楽になれる。
私は「そういうモノ」だと諦めてしまえば、楽になれる。
そして、いつしか私は「規格外破壊」と呼ばれるようになった。
ちっとも可愛くもなく、ちっとも美しくもない。
ただ、お兄様だけが褒めてくれた。
それだけが私の癒しだった。
醜い、と彼は言った。
なら、その醜さに浸からせてあげるまで。
「いいですわ？死にたいようであれば、私は喜んで協力してさせあげます。それはもう、直せないように、徹底的に破壊して破壊して破壊してさしあげますわ！」
「ふっ。そう簡単にはやられん。ダブルマイスターとしては新参者の俺だが、他の先輩達に遅れをとるつもりはない。もちろん、君にも」
「あら？貴方はダブルマイスターだったの。なら、覚悟はよろしくて？」
「ああ、いつでもこい」


「懐かしい名前だなぁ、リオちゃん」
「知ってるよね？貴女がいた孤児院のホロウワールドにいたはずよ」
「うん……それでリオちゃんの何が知りたいの？」
「……リオ・アリアナイトは何の病気で亡くなったの？」
「ん、まだ生きているよん？」
「えっ？」
美空の情報と食い違い、私は目を丸くした。
「リオちゃんは、生きている。大事な事なので二回言いましたー」
「でも！美空からは死んだって」
「あー、美空ちゃんは『そう』認識してるかもねぇ？」
「それは……どういうこと？」
「まぁまぁ、おこたに入りなさい。この話は少しでは終わりませんから」
コタツのテーブル部分をトントンと小突き、私をコタツへと誘った。
彼女に言われた通り、コタツに入る。
暖かい。
人をダメにする感じがたまらない、が、今は集中する。
「リオちゃんはね、今、眠ってるんだよ。あれ？起きたんだっけ？彼女はとても特別だからねぇ」
「特別？」
「彼女は『魔女』の家系であるアリアナイト家だから」
魔女というキーワードがついに出てくる。
新事実が矢継ぎ早に出てくるので、私の認識能力が追いつかない。
「ええっと……順を追ってもらえると助かるのだけれども……」
電波妖精は頬をぷくっと膨らませた。
「話すの苦手なのぉ。じゃあ葉桜ちゃんが質問して？それに私は答えるからぁ」
彼女はまた気だるそうにコタツに突っ伏した。
「私が心配する事じゃないんだけど、そんなに喋っていいの？」
「ん？いいんじゃない？私の役目は葉桜ちゃんを止めることだし？それ以外は好きにさせてもらいますよぉ」
彼女は携帯ゲームを取り出し、それをやり始めた。小粋なゲーム音が鳴り始めた。
「質問プリーズ！」
なんか調子が狂う。
彼女は魔法世界で一番の空間魔法使いだからこそか。
独特な間というか、雰囲気というか。　
もっとこう……私の憧れていたダブルマイスターと大きな乖離がある。
ま、一旦それは置いといて。
「魔女、ってなんなのよ？」
「魔女は禁忌そのもの。魔法使いの起源のひとつ」
「ごめんなさい。よく分からないのだけど……」
「簡単に言うと、超凄い魔法使い。私達じゃ比べ物にならないくらい。超凄すぎて内緒にされてきた存在。どれくらい凄いかって言うと……そもそも比較すら難しいんだけど、うーん……」
例えが難しいのか悩んでいる。
それほどなのか。
「私も、貴女もダブルマイスターだけど、それより？」
「私達が組んでも敵わないよぉ」
助け舟を出したつもりだったが、その事実に頭がクラクラする。
上には上がある、と言ったものだが　……　。
「ま、そのせいで魔女達は世界から淘汰されたの。そんな強すぎるボスはいらない。強大すぎる力は恐怖に繋がる。それこそ魔法世界が一丸になって彼女達を狩り始めた。当時はこの魔法世界は二つの国に別れていて、その二つの国が結託して魔女狩りね？さすがの魔女達も、魔法世界の二国が束になってきたら勝てなかった。自殺する魔女もいたらしいよん。その中で生き残った１つ血が、アリアナイト」
これは後から聞いたのだが、母が生きていた頃に起きた戦争が始まった根本は、魔女がいなくなったことにより、二国の内の片方が力を主張し始めたことによるらしい。
共通の敵がいる時は手を組み、共通の敵がいないと争い合うとは、なんと虚しいのだろうか。
「アリアナイトは息を潜めた。それこそ、その超凄い魔法を「身を隠す」ことだけに使った。それではさすがに見つけられないのよー」
「身を隠すって……認識阻害魔法とか？」
「そんなチャチなものじゃないよん。本当かどうかは分からないけど、違う魔法世界にいた、とかなんとか」
なるほど。
それはぶっ飛んでる。理解できない。
奇跡の魔法だ。
「リオ・アリアナイトは最後のアリアナイトと言われてる。これも定かかどうかは分からないけどもねん？」
「最後の……でもなんで彼女があの孤児院に？」
「それは……リオちゃんにしか分からないかなぁ。でもまぁ彼女は魔女であることは確かだよん。魔女については大丈夫？」
正直、大丈夫ではないが、良しとする。
「ちょっと話し疲れちゃった……」