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マジカルガールロンリーボーイ
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マジカルガールロンリーボーイ 73

だから私のような四大魔法を生み出した者、通称「キャストホルダー」は隠居することが多い。
それをどこから嗅ぎつけてきたのか、この小娘は……悲恋を教えろ、教えろとうるさいのである。
しかしだ、この悲恋主義者。
巷では紳士で通っている。
小娘とはいえレディであることは間違いない。
無碍に扱うことができぬ。
できぬ、が、四大魔法を「はい、どうぞ」と教えることもできぬのだ。
四大魔法は魔法使いの中でも、魔法というものを真に極めた者の結晶。
自慢ではないが、私の悲恋も簡単に生まれたわけではない。
何年も、いや、何十年も悩み、苦しみ、泣き、それを乗り越えてようやく辿り着いたものだ。
「分かったから、早く教えなさいよ」
「……静かにしてくれないかクーリャ。私は今、忙しいのだ」
「忙しそうに見えないわよ。独り言をブツブツと」
「君には分からないだろうが、何事にも説明というものは必要なのだ。説明がないのは不親切だと思わないかね?例えば、何故に悲恋を欲しがってるのかを説明しない、とか」
「そうね。確かに説明はしてないわよ」
「そんな目的も分からぬ者に、四大魔法を教えると思うか?」
「私の目的は……貴方に笑われるから言いたくないわ」
「なら諦めろ。君が来てからもう一ヶ月。君という人間を少しは分かった。少し、だ。腹の内に何を隠してるか分からない奴を、信頼するほど私は若くもないし、優しくもない」
しかし、これだけ凄んでも、彼女が諦めないことも知ってる。
彼女が来たのは一ヶ月前だ。
突然、暴風雨がやってきたような感じだ。
ワガママで、まったく困ったものだ。
あれがない、とか、これが嫌だ、とか。
ここは私の家だというのに。
しかし、魔法のことに関しては、彼女は本当に素晴らしい。
ここまで生きてきたが、彼女ほどの綺麗な魔法使いはそういない。
もちろんレディとしても綺麗なのは認める。
私が言ってるのは魔法使いとして綺麗なのだ。
私が知ってる限り、彼女は大きく二種類の魔法を使う。
白水、と、ティアーオブクイーンだ。
ティアーオブクイーンに関しては天才と言わざるを得ない。
レベルツーの扉を開いたのは彼女が初めてだ。簡単なことではなかっただろう。
魔法史に残る偉業の一つだ。
そして、白水。
実のところ、この魔法が素晴らしい。
三姫の中で葉桜の紫電、青空の蒼炎とあるが、彼女の白水は凄い。
何が凄いかというと、彼女は白水をもうほぼ「操作していない」。
彼女がこうしたい、ああしたいと思った瞬間に、自動で白水は彼女の思った通りに展開される。
自動展開化されている、とでも言ったところか。
まず、魔法の発動までが早いのだ。原理的には脊髄反射に似てる。
この早さの違いは大きい。
戦闘になると、その早さは顕著だ。
1秒違うだけで、出来ることの幅が広がる。
この早さを身に付けるためには、どうすればいいか。
それは、反復、しかないのだ。
何回も、何回も、同じことをする。
一流のスポーツマンと同じだ。
ただ反復行動し、その瞬間に来た時に頭で判断する前に体が動くようにするしかない。
彼女は、それをずっとやってきた。
現に、この家に来ても、彼女は白水の反復練習をやめない。
最初は何をしているのかと思った。
魔力を垂れ流しにしてるだけかと思った。
しかし、それは練習だったのだ。
彼女の印象はそこで変わった。
実は、三姫の中で一番努力をしているのは彼女なのではないか。
次に、消費魔力が微量なのだ。
普通なら自動化するとコストが高くなると思うだろう。
しかし、彼女はもはや白水を自分の手足のように動かしている。
身体の一部とでも言うべきか。
彼女にとっては「白水」を魔法と言えるか微妙な立ち位置である。
それくらい彼女にとって「白水」は自然なのだ。
自動化にローコスト。
ここまでくると、美しいを超えて、神秘的と思えるほどだ。
しかし、そんな彼女が「悲恋」を欲しがる。
そこには相当な理由があるはずに違いない。
その理由なしでは、四大魔法を教えられないのだ。
「……なら、目的を言ってもいいわ、どうせ後であれですし……」
「ん?」
「いいえ。私の目的は……アッシュ・ヨルトセッドの記憶を忘れさせることよ」
「なるほど、ふむ……なるほどの。アッシュときたか。それで?なんの記憶を忘れさせるのだ?」
「それも言わなきゃダメなのかしら?」
「馬鹿もの。そこが一番の肝だ」
彼女は目を逸らす。
よほど言いたくないのか。
しかし、彼女はまた凛としたその眼を私に向けて、重い口を開き始めた。
「……以前、私は朝霧静夢という人を助けに行った時、アッシュに会ったわ。そこで、四大魔法の「運命」を掛けられたわ」
「ほう?運命、か。対象の相手の身体を意のままに操る禁忌魔法だ。アッシュは使えたのか。相変わらず怖い小僧だな。それで?」
「私は立ったまま身動きが取れなくなった。魔法も使えず、正直殺されると思ったわ」
それはそうだろう。
運命という魔法の解除は容易ではない。
自殺しろと操られれば、それまでだ。
「なのに……何をされたのかと言うと……口説かれたのよ」
「良かったじゃな……うおおっ!?」
途端、ティーカップのソーサーが顔に向けて投げられた。
咄嗟に避けたものの、耳元でヒュンヒュンと小気味いい回転音が通り過ぎ去った後で、ガシャンと後方でそれが割れる音が響いた。
「ふざけないで。それが、どれほど私のプライドを傷つけたと思ってるのよ」

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