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マジカルガールロンリーボーイ
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マジカルガールロンリーボーイ 66

しかしすぐに真剣な表情に戻る。
にやけてる場合ではないのだ。
神経パルスすら操る彼女は、雷化のせいもあってか著しく身体能力が向上している。
真上へのジャンプ、といってもまるでそれは空に落ちる落雷のようだ。
そして彼女が作った曇天の中に辿り着く。
闇のような雲の中に、雷は連続して煌めいていた。
輪郭を変え続ける化物(曇天)が蠢き続ける。
その中で雅の双眸はまっすぐに地上の獲物を見た。
丁度、真下に壁はある。
あれをぶち壊すには、魔法無力化の処理を超える大きい魔法をぶつけるしかない。
魔法陣を雅の背後に展開する。
この曇天を蛇のように走る雷を吸収し魔力で維持する、充電の魔法。
それを全て自分の魔法に上乗せする。
バチバチッと轟音が更に響く。
雷は絶えることなく続いていて、まるで応援してくれてるかのようだ。
その稲妻は魔法陣に吸収されていく。
充電構想は以前から考えにあった。
しかし、以前では自分の魔法で出した雷しか操ることはできなかったのだ。
ただ、今は電気というものは手に取るように操ることができる。
背後の充電を続けながら、真下へと両腕を向ける。
照準を合わせながらも、目線の端に映るワンちゃんを見た。
不細工な顔を更に不細工そうに、不安そうにこっちを見つめていた。
「もう少し、信じてみてはどうなのよ」
クスッと微笑む。
そして同時に、背後の充電が完了を告げるように光っていた。
充電の魔法陣を体内に取り込み、それを両腕へと繋ぐ。
雷が魔力に一度変換され、体内へと流れ込む。
途端、バチッと紫電が腕から漏れる。
腕から溢れるように出る紫電を必死に抑える。
両腕は紫色に薄く発光していた。
充電構想は、どうやら身体に負担があるらしい。
「ぐ……難しい……っ……ぶれるっ……!!」
魔力を抑えた状態で照準を合わせる。
一度この魔法を放てば、それこそ雷が暴風のようになり、目標まで直撃する。
しかし、腕はまるで猛獣を抑えてるかのように震えていた。
自分が許容できる魔力量を超えているのだろう。
それを維持することは許されない。雅という器の漏れやすいところから裂け、器が壊れるだけである。
つまり、この腕が壊れるということ。
残された時間はない。
今は力づくで抑えてるが、それが外れたら……。
「ああもう!考えても無駄だっての!」
自分の魔力容量を増やすことは一朝一夕でできないことが開き直る理由になった。
やらないよりは、やったほうがいいに決まってる。
しかし、本当にこれであの壁を突破することができるのか?
ほんの一瞬の躊躇が、逆に雅の頭を覚醒させる。
簡単なことだ。
当たらないのなら、当たるとこまで近づけばいい!
曇天を抜け、一瞬で地上の壁の目の前まで辿り着く。
「ぐっ…!!」
着地の衝撃か、魔力の暴走を抑えてる腕からブシュッと血が舞う。
腕のことを考えていなかった。
雷速移動のフィードバックがこの出血だ。
でも、とりあえず今はいい。
腕があがりさえすれば条件はクリアだ。
目の前の壁は、笑っていた気がした。
目の前の姫のあまりの無謀な挑戦に。あまりの無様な姿に。
はっ!お生憎様!私はあんたなんて願い下げよ!
一気に引き鉄を引く。
「いっけぇぇぇぇぇぇぇ!!」
私の腕から竜のような紫電が壁へと激突する。
その閃光は辺りをまるで昼かのように照らし、閃光弾のようにあらゆる生き物の目をくらませた。

物凄い閃光だった。
地上にいる綺羅綺羅世界はようやく目が見えるようになり、壁を確認した。
壁はまだ存在していた。
しかし、真ん中は大きな穴が開いており、辺り一帯は焼け焦げていた。
焦げ臭い、と思ったのはそれのせいか。
その中に、彼女は悠然と立っていた。
彼女はバチッと雷化すると、その大きな穴を通り、壁の向こう側へと辿り着いたのだ。
辿り着いたと思うと彼女の膝は崩れ、膝立ちになり、天を見た。

「……っ…ぐ……ひっ……っ……ぁ…ぁ…!!」

その後ろ姿は、震えていた。
両手は口を抑え、漏れそうな嗚咽を必死に我慢し、肩を震わせていた。
ポタポタと、止まらない雫が光る。
彼女は、ようやく夢を叶えたのだ。
ずっと、ずっと思い描いては、苦しみ、挫折し、それでも諦めなかった夢を。
どれだけ苦しい思いをしたかは、彼女にしか分からない。
でも、私たちの前では間違いなくそんな姿を見せなかった。
彼女は紫電の戦乙女の娘をやりきったのだ。
その重圧、期待に押し潰されながら。
いつも笑顔で、お母さんのようになりたい、と。
正直、私は見てられなかった。
封印が掛けられていることも知っていた私は、彼女が裏で苦しみながらも、表では姫を演じていた姿を見ていることが辛かった。
何度、もう諦めてもいいんだ、と言いそうになったことか。
でも、彼女の瞳が、私にそれを言うことを躊躇させた。
彼女の瞳は真っ直ぐ母親へと向かっている強い瞳だったから。
それが例え辛い道のりだったとしても、それに立ち向かう強さが彼女にはあったのだ。
その彼女がようやく、ここまで来た。
母親と同じ、ダブルマイスター。

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