マジカルガールロンリーボーイ 65
その感覚に、思わず驚いた。
まるで喉がカラカラに乾いていた時に飲む水の感覚に似ていた。
爽やか、というか、瑞々しいというか。
澄み渡る魔力に、震えた。
これから起きるだろう奇跡に、心が震えた。
手の平を前方に向けて、深呼吸をする。
ただいま。また、よろしく、私の魔法。
バチッ…バチバチバチ!!
その雷鳴は激しく、その雷光は煌めいて、その雷電は菫(すみれ)色だった。
「母親の魔法より、少し色が濃いかしら。綺麗よ、とても。綺麗で力強くて、まるで貴女のような魔法だわ」
「……私の、魔法………」
涙が出そうだった。
飛び跳ねたくなるほど嬉しかった。
でも、まだ、泣けない。
私はこれくらいじゃ満足しないの。
「ワンちゃん、試験、お願い」
ワンちゃんは驚いた表情で私を見たが、すぐに微笑んだ。
「分かったわ。……ワンダフル」
ワンちゃんが魔法を唱える。
「さ、これの奥が、貴女が目指してきたものよ」
ワンちゃんは淡い橙色の横縦5mほどの壁を出した。
ダブルマイスターになるための試験はこの魔法無効化の壁の、向こう側、へと突破すること。
私が夢にまで見た試験だ。
「玩具箱はタブルマイスター。彼のところに行くのだったら、同等の力が必要よ。でもこの壁は、そう簡単には越えられない」
分かってる。
この壁は、魔法使いにとっては最硬といっても過言ではない。
魔法をぶつけた途端に魔法が無効化されていくのだ。そして、魔法使いがこの壁を何の対策も無しに通ると、魔力の源が無効化、つまり魔力を生み出せなくなり、魔法使いではなくなってしまうのだ。
幾多の魔法使いがこの壁に挑戦し、向こう側へと行けずに挫折してきた。
そして、ほんの一握りの魔法使いだけが、この壁の向こう側へと辿り着き、ダブルマイスターへとなる。
もちろんダブルマイスター全員がこの試験をやったわけではない。居場所不確定のダブルマイスターはこの試験を突破する力がある者が選ばれる。
私が最近、この試験に合格した者を見たのはクーリャだ。
彼女はこの壁を目の前にして、ティアーオブクイーンのレベルツーを発動。
魔法無効化を「魔法有効化」にし、水の魔法で壁そのものを粉砕し正面突破した。
「余裕」と言った彼女の言葉に私は悔しさを覚えた。
でも、今は違う。
今なら、そこに届きそうな気がする。
「大丈夫よ、ワンちゃん」
「根拠は?」
「女の勘!」
「それ以上の理由はないわね……!いいわ、思いきりやってみなさい!」
目の前の壁を直視する。
何度、この壁を壊す夢を見てきたか。
そして何度、諦めそうになったか。
でも、諦めたことはなかった。
挫けても、転んで倒れそうになっても、ダブルマイスターになる夢が私を奮い立たせた。
それも今日まで。
ここで私は、ダブルマイスターになる!
深呼吸をして、ゆっくりと空を見上げる。
もうすっかり日が暮れ、光り輝く月が出ている。
随分と都市部から離れたのだろう。
人工的な灯りは少なく、ますます月の明るさを助長していた。
その天へと向かって手を向ける。
手のひらを広げ、まるで月を掴まんと高く伸ばす。
今宵の月見はこれにて終わり。
空に向かってある魔法を飛ばす。
それが空で霧散すると、一気に曇天へと景色が変わる。
先ほどまで月に照らされていた大地が、その光を遮られ、より暗さを増した。
その中で、まるで開幕を告げるかのような瞬く光があった。
雲の中で、雷鳴が轟いている。
今にも雷が落ちてきそうだ。
雅はバチッと真上にジャンプをした。
封印が解かれ、自分の魔法を取り戻したことで、驚くほどに魔力の使い方が上手くなった。
つい最近まで限界だと思っていたラインを簡単に越えてもなお余力があることに、思わず顔がにやけてしまう。