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マジカルガールロンリーボーイ
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マジカルガールロンリーボーイ 26

「ちょっと…痛いわよ…」
「ごめん…」
謝りながらも力は緩めない。
それはだって、仕方ない。
彼女は目に涙を浮かべていたのだから。

「ティアーオブクイーンは、こう使うのよ」

目が見える僕には最早、既に気づいていた。
ただ、視界に定まらせたくなかった。
ああも、禍々しい赤を見たことがない。
「うそ、お姉さん…生きてたの?どうして?」
「ええ、ごめんなさいね?津波から逃れる方法なんて、いくらでもあるのよ?でもちょっとびっくりしちゃったから、ちょっと本気を出してしまったわ?」
あれが彼女の本気というやつなのか。
彼女は眼鏡を外している。
黒と赤のコントラストで全身を固めている彼女が、赤い眼鏡を外し、色の比重が黒に寄るものだと思っていた。
しかし、そこには黒に混じった赤があった。
黒崎赤音の瞳は血のように、真っ赤に光輝いていた。
「さてと、さあ…その娘は使い物にならなくなったから、行くわよ朝霧くん?」
赤の化身が僕に近付く。
「黒崎さん、クーリャの目をどうしたんですか?」
「私のティアーオブクイーンの能力はね…奪う、なのよ。もう分かったかしら?」
「奪ったのなら、返してください」
「残念、いらないから捨てちゃったわ?」
嘘、とクーリャが小さく呟く。
もう彼女の瞳は緑色に輝くことはない。
支配の最奥にあるものは略奪であった。
どんなものであろうと自分のものにする。
絶対支配という意味はそこから来ていたのか。
黒崎赤音は僕の目の前まで近づいてきた。
近くで見れば見るほどにおぞましい。
その目に全て奪われてしまいそうになる。
「朝霧くん。じゃあ行きましょ?」
「…クーリャの眼は…本当に元に戻らないんですか?」
「ええ…残念だけど」
「ふざけるな」
「シズム…?」
怒りのこもった声に、さすがクーリャも驚いたらしい。
だけど、正直抑えられない。
また僕のせいで、誰かが傷つくのか。
もう本当に懲り懲りだ。
「クーリャ、治す方法が一つだけある」
「本当…?」
「うん、僕の魔法を使う」
ワールドイズマイン。
もうどの道、退路は無いのだ。
ならば、もう迷う必要はない。
今ここで使わずに、いつ使うのだ。
「へぇ…朝霧くんは確か、今は使えないと聞いてるけど?」
「使えない…けど、使う」
「気合いでどうにかなるものじゃないわ?」
「それも知ってる…けど、使う」
なによりもまず、僕が使いたいと願わないで、誰が願うのか。
「シズム…いいよ、逃げてよ…ここは私が食い止めるから」
光を失ってもなお、この姫は戦う意思を無くさないのか、僕の前に出て黒崎赤音に立ち塞がる。
「飽きない娘ね。次は何を奪ってあげようかしら」
ビクッと体を震わせるクーリャ。
怖いのだ。何かを奪われるという恐怖が彼女を支配する。
「怖くないわよ…」
「ん?」
「怖くないわよ…目が見えないくらい。誰の許しを得て、私の目の前に立っているのよ」
それでも彼女は強かったのだ。
恐怖に支配されてもなお、彼女の心は折れることなく、悠然と姫であった。
彼女がこんなに頑張っているのだ。
僕だけが逃げるわけにいかない。
それに今ここで逃げたら、クーリャだけでなく、雅や美空ねぇを裏切ることになる。

もう―
わがままはやめよう。
おかしな魔法使いであることを認めよう。

しかもその中でもレア中のレアだ。
いじめられていたあの日々、なんで僕だけと嘆いた日がある。
その日から僕は他人と違うことに恐れていた。
できるだけ目立つのは止めよう。
それでもいじめられていたけど、僕はノーマルを目指した。
ただただ、僕は普通だと叫び続けた。
しかし現実は僕が普通であることを良しとしない。
僕はきっと普通というゴールを目指しているのにも関わらず、特別という迷宮に入り込んでいたのだ。
普通なんてゴールは無いのに、ひたすらに迷い続けた。
思い返してみろ。
僕は昔から…そう、孤児院に入る前から特別扱いされていた。
いや違う。
特別扱いなんて、まるで優遇されてるみたいじゃないか。
僕はきっと『異常扱い』されていた。
醜いアヒルの子だったんだ。


まさに僕は一生『孤独』で、一生『迷子』だ。



「ワールドイズマイン、起動」
アレを起動したら終わる。

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