迷宮の 10
そのとき、部屋の扉が開いた。
入ってきたのは、カヒマだ。
「……あれ」
つまり、この部屋は異空間系でもあったらしい。『ニセモノ』が成り代わった者、つまりカヒマは異空間に飛ばされてしまっていたのだろう。
「終わってるみたい、ですね」
もういくつもの部屋を回って経験を積んでいるカヒマは、一瞬でだいたいのことを悟った。
「にしてもドウブさん。なんでニセモノがわかったんスか?」
「……見抜いたのは、コクリだ」
カヒマをおびき出すために声を使用したコクリは、普段あまり変わらない表情をわずかに不快そうに歪めながら、手にしていた拳銃を床に戻した。
「……コクリ、なんでや?」
ナツミは聞いたが、コクリは必要以上にしゃべりたくないとばかりにそっぽをむく。
「俺の偽物がいたのなら、多分“石”は俺の体のどこかに……」
カヒマが自分の衣服を調べる。胸ポケットに、覚えのある感触があった。
“石”だ。
「この部屋も、クリアッすね」
「一発目が成功でしかも紫とは……幸先がいいな」
カヒマがそう言った瞬間、景色が揺らぎカヒマもどきと床に置いた拳銃が消えた。
「……元の世界に戻ってきた訳だが、結局あの偽者は誰の産物だ?」
これはドウブの独り言である。すぐに意味を理解できたのはナツミだけだったが。
「多分…俺のかと」
「そうか」
「……以後気をつけます」
「いや、仕方無い」
偽者の言動はナツミに支配されていたのであった。
……そろそろいいだろう。話をアサミ達に戻そう。
彼等は運良く他の彷徨者が残した縄の道標を見付け、それに沿って歩き門まで辿り着いたばかりだった。
アサミは独りごちた。
「これまでで第一の門を突破したのは何人だろう……」
門の課題―試練は元々決まっている訳ではない。彷徨者の想像(可能性含む)から無作為に現出し、難易度が調整される。
「覚悟はいい……?」
「……」
イツリは無言で首肯した。アサミもだが、緊張しているのだ。
そしてまずアサミが門に手を触れ、直後にイツリが続いた。
【アサミ】
アサミは例の白い部屋に移った。暫くは何も起きなかったが、彼はふと自分の中に何かが生じている事に気付いた。
(何か質問されている……)
それは意識して構築しなければ、完全な文章にはならない。ただしそうする必要はあまり無い。ただ気付けばいい。
「――僕の名前はアサミトウアイセノ」
アサミは回答を始めた。
「――神などその辺にごろごろ居る」
「――死ぬのは恐い。精神の消滅が恐い」
「――」
「――」
「――」
「――」