迷宮の 19
「はぁ!?」
次の瞬間、鈍い音を立てコクリが鉄柱にぶつかった。
偶然か必然か、丁度崖側に傾いていた鉄柱はバランスを崩して倒れ、そのまま谷底へと落ちていった。
「……大丈夫か?」
コクリは倒れたままであるが、どうやら呼吸はしているようだ。
ナツミは痛む体を引き摺りコクリに近寄る。
「どこぶつけた?肩か?痛いか?」
抱き起こし、見ると二の腕に大きな腫れができている。元が白いだけに痛々しい。
これは自分のせいである。コクリは自分を守る為にあんな行動に出た。
ナツミは「ごめん」と言いたかった。しかし声に出そうとすると何故か嗚咽に変わり、言葉にならない。
「ごえ……ぐっ……」
「……いい」
今度は「ありがとう」が出ない。
ナツミは結局、コクリを抱き抱え砂漠の岩陰に辿り着くまで、どちらを言う事もできなかった。