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迷宮の
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迷宮の 1

迷路の話だ。とにかく馬鹿でかい迷路。それをやや比喩的に迷宮と呼ぶ。
迷宮内には何でもある。本当に何でもアるのだ。
そこにいる人間の数は百人。彼等は食・睡眠等の原始的欲求を忘れ、またその必要すらなくし、迷宮の中心に辿り着くべく彷徨している。
中心を目指す理由など存在しない。ただ目指さねばならない、そう決まっているのである。
もう気付いただろうが、これはよくある迷宮話の一つである。しかしそれでも思い描かずにはいられないこの魅力、主人公達が少しでも伝えられるよう……
 
主人公は適当に選んだ訳ではない。そろそろ集団で行動する者が増えてきた中、まだ仲間を見付けられていない者を選んだ。
その名はアサミトウアイセノ…長ったらしいので略してアサミとしよう。注意すべきは『麻美』でなく『浅海』な感じで発音する事だ。
彼は今広い部屋でくつろいでいる。長い苦労の合間に束の間の安息に辿り着き、この時間が永遠に続けばいいと願った事がある人は少なくないだろう。その時間が持つ独特の緊張感が味わい深いと思う人もまた然り。
その部屋には無駄に大きいテーブルがあり、マスに数字を入れていくパズルの冊子と新品の消しゴムつき鉛筆があった。それはこの部屋に立ち入ったのはアサミが最初である事を示す。
 
十二時間経った。アサミは冊子を完全攻略し、黒くなった右手の小指側を拭いながら次の行動を考えていた。
ここでは退屈は命取りだ。実際アサミが運良く鉛筆削りを持っていなかったら結構危なかった筈だ。
それは普通なら一週間はかかるであろうそのパズル冊子を、たった十二時間で意味の無い紙切れにしてしまった事からも分かる。
この部屋を抜ける鍵は、「退屈」。
決して退屈を野放しにしてはいけない。
あらゆるものがあるように感じるこの部屋でも、すでにアサミの興味をひくものは少ない。
一瞬、ゾクッとした。
扉がいつ開くかは、わからない。例えばそれは今にも開くかもしれないし、次に鳩時計が声高に鳴くまでは閉じられたままかもしれない。
想像できるだろうか?そんな空間で訪れる「退屈」がどれほど危険なものか。することもなく、いつ終わるとも知れない無意味な時間に耐える、その恐怖が。
だからこそここでは、「退屈」を感じるわけにはいかない。
「この部屋には何か無いの?」
アサミは胸の内で呟き、辺りを見回す。
しかし目立つのは、無駄に大きいテーブルの上にある自らが既に黒く制圧した冊子と鉛筆があるだけ…。
一度、解を得た不変の問題を二度(ふたたび)解きにかかろうとするのは、退屈に自ら飛び込む事になる。
解は既に持っているのだから。
不変は退屈だ。
ここでは退屈は命取りだ。
ここでは不変も命取りだ。

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