迷宮の 5
「…多分閉じ込められたわけじゃない。だってこの部屋にはちゃんと“石”があったからね。きっと隠された脱出方法を見つけなくちゃいけないんだろうけど…」
そこまで言ったとき、突然アサミが立ち上がった。
イツリは驚いて、どうしたの?と言いかけたが、それより早くアサミが口を開いた。
そして、大声で叫び始めた。
「わあああぁぁぁあーーっ!!」
「ど、どうしたの!?」
イツリはびっくりして言った。アサミが狂ったのかと思ったのだ。
「お、落ち着いて!大丈夫よ!きっと…」
イツリは慌ててアサミを宥めたが、予想に反してアサミはいつもどおりの冷静な表情で、叫ぶのをやめて言った。
「…やっぱりだ。反響してる」
「はっ?ハンキョウ?」
イツリのほうに向き直り、アサミは続けた。
「ここには、壁も天井もないはずだ。…なのに、音が反響している。つまり…」
すっと暗闇に首を向ける。
「壁がないなんてのは、幻覚だ」
「な…なるほど」
イツリは、アサミの洞察眼に心底感心した。
イツリは知らないが、アサミは前にも超難問に分類される数学パズルを、考えられない速さで解いている。
彼はそういった才能に飛び抜けた人間だった。
「ここは光と闇が逆転しているんだ。普通は光、つまり視覚でものを判断する。けれどここでは、視覚以外のみでなければものを判断できない。だから、こうすれば…」
アサミは、発光する“石”を、両手で覆い隠す。全く光が漏れないように、完全に手で密閉した。
部屋は今度こそ、本当の闇に包まれる。
「調べてみて」
アサミに言われて、イツリがおそるおそる二、三歩歩いた。すると、
「ある…。あったわ!壁よ!これを伝っていけばドアにでれるわ!」
アサミはまた一部屋攻略した。このまま二人の動きを追ってもいいのだが、二人は暫く門を探し続けるだけだろう。
それでは面白くないので、一旦主人公から離れ、別の人間を追ってみよう。