迷宮の 3
少女の名前はイツリエンゼウジャサ(長ったらしいのでイツリと)で、仲間とはぐれて彷徨った挙げ句にこの部屋に入ってしまったのだという。
「あと…これ」
イツリがにぎりしめていた手を開く。そこには、紫色の“石”があった。
「これは、この部屋の、石?」
「そう…。飛ばされた先に、あったの…」
アサミは扉の外から部屋の中を見た。
入らないほうがいいと判断する。“石”がないのなら意味がないし、第一異空間に飛ばされるのはいやだ。
アサミは不意に浮かんだ『何故こんな狭い世界ではぐれるような事になったのか』という疑問を頭の隅に押しやり、尋ねた。
「これからどうする?」
「はぐれた皆を探したい所だけど…無駄かな。私達二人で次の門を探すと良いと思う」
イツリは別に持っていた“石”一つを示した。
「僕はこれだけある」
現時点でアサミは六つ“石”を持っていた。これは中々の成績である。
「門を突破する前に、もう少し部屋を回ってみようか」
「そうね」
二人は次の部屋を探しはじめた。
ところで部屋の入口は、ドアによって隔てられている。ドアの種類に違いがあるわけではないので、部屋のタイプは雰囲気と勘で判断するしかない。
ふと、アサミがあるドアの前で足を止めた。
「この部屋…どう思う?」
「たぶん、大丈夫だと…」
アサミが先頭になって、ドアを開く。
部屋の中は、暗闇が満ちていた。
開けたドアから入る光で白い床や壁がかすかに見えるが、これを閉めたら本当に真っ暗な空間だろう。
「なんだ…?この部屋は…」
呟きながらアサミは部屋に足を踏み入れた。イツリもそれに続く。閉めないほうがいいだろうと考えて、ドアは開けたままにしておいた。
二人が完全に部屋の中へ入ったとき、イツリがふとあるものを見つけた。部屋の隅で、なにかが光っていたのだ。
「ねえ…、なにかしら?あれ」