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迷宮の
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迷宮の 17


「となるともうここには用は無い訳だ」

カヒマは外に出た。他の三人も続く。最後に出たナツミが、扉にリセット部屋を示す印を刻んだ。
ドウブ達の部屋決定は交代制である。先頭を歩く者が部屋を決め、出る時に先頭が交代する。

「ここだ」

カヒマはすぐ隣の扉の前に立った。
当然の判断だ。リセット部屋の近くにいれば、疲れていてもすぐに回復できるのだから。

「入るぞ」

中に入ったドウブ達は少しがっかりした。設置物は何も無く、床には魔法陣の如き模様。正式なタイプの転送部屋だ。
「……」

全員でただ静かに飛ばされる時を待つ。何度経験していても緊張するらしい。
カヒマは咳払いをしたり落ち着きがなく、ナツミは目の焦点が合っていない。怪訝に感じたカヒマが問い質すと、イメージトレーニング、とだけ答えた。
コクリはいつもと変わりなく見えるが、よく見ると内面が張り詰めているのが分かる。
ドウブは床の模様を眺めている。こちらは本当に分からない。

カヒマが痺れを切らした。

「転送はまだか?い……」

カヒマの言葉を切るように景色が変わった。

【カヒマ】

「ったん……んえ!?」

カヒマは不意の景色の変化に驚き、間抜けな声を出してしまった。
カヒマはタクシーの後部座席の左に座っていた。窓を覗くと赤茶けた深い谷が見える。二メートル左に逸れると真っ逆さまだ。だが、エンジンの振動に揺られ外を眺めるカヒマの心は、不思議と落ち着いてきていた。

それにしても彷徨者以外の人間に会うなんて初めてだ。そう思いカヒマは運転手に声を掛けたが、直後に心の中で舌打ちをする事となった。

運転手は人間ではなかった。

いや生物ですらないかもしれない。
それには頭・腕・脚しかなく、胸・腹にあたる部分には何も無かった。直感的にタクシーの一部であると感じる。

「……景色見たいんで、スピード落としてくれるかな?」

カヒマは頭脳をフル回転させ、作戦を考えた。
ここは気にしていないふりをし、こちらが警戒していると悟られないようにする。相手が敵でない可能性も考慮した策だ。

しかしスピードは落ちない。それどころか独立している脚はアクセルを踏み、腕はハンドルを左に切った。
タクシーは真っ逆さまに谷底へ落ちていった――

【ナツミ及びコクリ】

ナツミとコクリはほぼ同じ場所に飛ばされた。ナツミは急いで周囲を確認する。
一方は谷、一方は岩石砂漠。一様に赤茶けている。方角を確認しようと太陽を探す。

「……太陽が無い!?」

普段陽光の無い世界に住む彷徨者。異世界でもお目にかかれないとは不憫である。

「じゃこの光は何処から」

全天が発光していた。故に影も無い。
もう何処を見ても脱出の手掛かりは無い。ナツミは取り敢えず谷に沿って進む事にした。

「なあコクリ……次どっち行こか」

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