迷宮の 16
イツリが鏡の前に立ち正面を向くと、カランと何かが落ちる音がした。
「青い“石”だ……」
どこから落ちてきたのか。
気になったイツリは注意深くその辺りを見、マネキンの肩に置いてあったはずの梟の彫刻が無くなっている事に気づいた。
「“石”は梟が残した卵って趣向……?それにしては小さ過ぎるけど」
そう言い残すと、イツリは本に何かを書き記し、本を閉じ、部屋を後にした。
イツリが扉を閉めた時の風で、本の最後のページがめくれた。
そこには、こう記されていた。
『あとがき』『白い梟は去りました。忘れ物を置いたまま』と。
アサミは跳ね起きた。
体内時計は入眠後八時間が経過した事を告げていた。
この状況ではあてにはならないが、一つの基準にはなるだろう。
アサミは外に出、鉛筆の線を確認して出発した。
キリがいいので、この辺りでドウブ達に視点を移そうと思う。
ドウブ達は驚異的な速さで門を見付け、少ない“石”の数で全員門を突破していた。これはもはや奇跡である。
「レベル四……転送系ばっかりやんけ」
「正直怖いな」
ナツミの言葉をカヒマが継いだ。
「ん」
ドウブが立ち止まった。正確に言うと、先頭を歩いていたコクリが、扉を指差して止まったのに倣った。
フシューと空気の漏れる音がした。
ナツミが欠伸を噛み殺す音だった。
「開けるぞ」
ドウブが扉を開けた。中は何も無い空間である。
「決まりだ。転送系だなこりゃ」
「いや、百%では無いやろ」
いつの間にかカヒマにタメ口を利いているナツミであった。
結局中に入らない理由も無いので、全員が部屋に踏み込む事となった。
約三十秒後。全員が違和感を感じた。
「……ん!?」
「……あれ?……ああ、リセット部屋か」
分析はナツミが一番速い。違和感の正体に逸速く気付いた。
リセット部屋とは、栄養、睡眠量等の身体の状態を初期状態に戻す部屋の事である。今回の様にリセットだけをする部屋は珍しく、大抵は“石”の出現と同時にリセットされる。