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見果てぬ夢を追いかけて
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見果てぬ夢を追いかけて 4

拓馬からの報告を受けた夏菜もぱあっと明るい笑顔になり、おめでとう、と夫を祝福する。
時折拓馬が早口になって聞きづらいときもあったが夏菜は会話の端を折ることはせずただ相槌を打つ。

「ただ、今年のダービーは1頭強いのがいるのよね」

その強い1頭とはシンボリルドルフのこと。
電話越しの拓馬も「そうなんだよな」と一瞬落胆したような口ぶりになるが、すぐに調子を取り戻す。
ジョッキーにとって日本ダービーは憧れのタイトルであり、夏菜もいずれは自家生産馬で勝ちたいと思うレースであった。
いつになるかはわからないし、もしかしたら一生叶わぬ夢であることは夏菜は理解している。
日本のサラブレッドの平均生産数がおよそ8000頭で、ダービーに出走できるのはその中の18頭しかいないのだから。

「今回は他所の生産した馬だけど、いつか夏菜の馬で出走して勝ちたいね」
「ええ」

それを聞いて夏菜の頬がほんのりと赤く染まった。
電話の向こうでは拓馬をからかう声が聞こえている。
こういうやり取り一つ一つが夏菜にとってはとても嬉しかった。

「そろそろ追い切りの時間だから」
「はい、頑張ってくださいね」

拓馬が通話を切ったのを確認して、夏菜は受話器を置いた。
ふと窓の向こうが気になった夏菜だったが、特には何もなく、少し首を傾げながら馬の世話に厩舎へと向かうのだった。



―日本ダービー当日―

夏菜は現地に入っておらず、牧場からテレビで観戦していた。
入場者は10万人を超えており1レースごとに地鳴りのような歓声が響いていた。
早朝の平場からこうだから、ダービー本番にはもっとすごいことになるだろう。

拓馬はこの日、ダービーを含む5鞍に騎乗し第9レースでは勝利も上げていた。

いよいよ日本ダービー、本番。
GTレースのファンファーレが鳴り響き、それに合わせた観客の手拍子が加わる。
出走する18頭が滞りなくゲート内に収まっていく。

スタート。
拓馬の騎乗馬はわずかにタイミングが合わず出遅れた。

夏菜は一瞬小さく悲鳴を上げ、生唾をごくりと飲んでその姿を見守った。

「や、ダメっ」

一瞬画面に捉えられた姿を見て、夏菜はまた小さくつぶやき、テレビから視線を背けようとする。
スタート直後出遅れ最後方となった拓馬は「ダービーポジション」と呼ばれる10番手以内に外から強引に押し上げようとしていた。
いつもの拓馬だったら考えられない騎乗ぶりだった。

いつもだったら馬任せで徐々にじわりじわりと追い上げていくのが拓馬の騎乗スタイルのはずだった。
それがGT、まして日本ダービーの初騎乗だったことからすべて吹き飛んでしまっていた。

レースは前半の1200m地点を通過。
1分11秒6と平均よりも遅いペースで流れていた。
スローペースで、後方からではこのままでは届かない。しかし今から脚を使うと最後まで持たない。
シンボリルドルフ鞍上の岡江以外の騎手は、皆ルドルフの動きを気にして互いにけん制しあうような空気だった。
シンボリルドルフは現在前から5番手あたり。まだ動く気配はない。
仕掛けるタイミングが馬自身がわかっているように見え、まだその時ではない、と思っている。

3コーナーを回り、4コーナー手前に差し掛かるあたりで拓馬は手綱を激しく動かし始めた。
しかし―

「い、いやぁああああああぁ!!!!!!!!」

中継画面を見て、夏菜が悲鳴を上げる。
拓馬の騎乗馬は前脚を故障しバランスを崩し、拓馬の身体が空中に投げ出されたのだ。

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