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見果てぬ夢を追いかけて
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見果てぬ夢を追いかけて 5

―日本ダービーから数日後―

夏菜の牧場―早風ファーム―は静かに、時が過ぎていた。
日本ダービーのレース中の落馬事故により、早乙女拓馬はこの世を去った。
牧場には拓馬の葬儀告別式が行われ、多くの競馬関係者が参列に訪れた。
夏菜の姉・真奈も、拓馬を静かに見送った。
真奈から見たら、想像以上に参列者の数は多く映った。
生前の拓馬は親しみやすい人柄だったことがそれを表しているのだろう―


競馬会の理事も参列に訪れ、再発防止に努める、と告げていた。
具体的には、レース用のヘルメットの改良。
現行のものが決して脆弱なわけではないが改良の余地はまだまだあるという。
拓馬が亡くなったのも落馬事故自体よりも避けられなかった後続馬に頭を蹴られたことが致命傷になった。
他馬のジョッキーはもちろん皆避けようとしたが密集する馬群の中でのレーシングアクシデントなので全員がきちんと避けることはできない。
それでも勝ったシンボリルドルフなど、上位入線馬は事故を回避し不利なくレースを進めていた。


夏菜はショックを受けており、今も自室のベッドに座ったまま虚空をただ眺めていた。
涙はもう流し切って枯れ果てていた。
時折何かを呟くが自室に入ってくる者もなくそれは誰の耳にも通らなかった。

逆に莉夏のほうが気丈に振舞っており、今朝も馬の世話を頑張って行っていた。
厩舎で泣いている姿を見かけた、というスタッフもいたが誰も声をかけられなかった、というほうが正しいかもしれない。
そのため東京から急遽真奈がやってきて葬儀などいろいろ取り仕切っていたのだ。

その葬儀もひと段落がついて、真奈は夏菜の部屋を訪れるのだった。

「ふ…」

夏菜の部屋のドアを前に、真奈は一度立ち止まり小さくため息をつく。
彼女の後ろには心配してついてきた夫・桜木隆俊の姿もあった。

「夏菜っ!」

コンコン、という優しいノックではない、ドンドンという荒々しく拳をドアに叩きつける真奈。
隆俊は一瞬驚いて目を見開くが、自身も同じように夏菜のことが心配なので、妻を咎め制止することはしなかった。

「莉夏ちゃんだって耐えてるのに、アンタはいつまでもそんなんでいいの?」

中からの返事はない。
真奈はそれでも自分の声が夏菜に届いていると信じドアを叩き続けた。

「あれは嘘だったのか?莉夏ちゃんまで巻き込んでやるって言ったのは!」

このままでは夏菜がダメになっていく。
真奈はそう思っていたし、それは何としても避けたかった。
真奈はしばらく夏菜の答えを待っていたが、訪問客が増えてきたため一度離れた。
真奈は寂しげな顔をして、夏菜の部屋を後にした。


やってきたのは拓馬の同期であるジョッキー2人。
うち一人は男社会の印象がいまだ強い競馬界では第一人者ともいうべき女性騎手で芯の強さと穏やかさを併せ持つような美人。
もう一人は赤みがかった長髪がトレードマークで、豪快な性格が持ち味の地方競馬の男性騎手だった。

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