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見果てぬ夢を追いかけて
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見果てぬ夢を追いかけて 3

「次は飼い葉ですね」
 
夏菜は人と同じ様に、馬が食事に飽きないように工夫をしている。
同じ物が連続して出されたら、馬だって飽きるだろうと考えているがこれは夏菜の考えであり、他の牧場ではやっているか分からない。
千切りした人参とえん麦をかき混ぜて、その上に4つに切ったりんごを入れて完成。
りんごが嫌いな馬もいるので、代わりにトウモロコシを大量に入れる。
馬は前掻きをして飼い葉の催促をしており、夏菜は、はいはい、と言いながら作っている。
全てが終わると15時を過ぎており、夏菜は急いで家に戻る。

クラシック前のトライアル――中山芝2000mで行われる弥生賞の観戦だからだ。
1番人気はビゼンニシキ、2番人気にはシンボリルドルフという2頭による争いと考えている者が大半。
夏菜の予想では4:6でルドルフが勝つと思っているが、莉夏に予想を聞いてみると、ルドルフーと無邪気な答えが返ってきた。
 
「理由は?」
「名前がカッコいいからー」

その答えを聞くと夏菜は微笑みながら莉夏の頭を優しく撫でた。
子供からしたら馬の実力よりも名前で決めるのが普通だと思っているので、莉夏はなぜ頭を撫でられているのかわからないだろう。
そうしているうちに関東重賞のファンファーレが聞こえてくる。

ダンディルート産駒のビゼンニシキとパーソロン産駒のシンボリルドルフ、この2頭はともに美穂所属の第一人者・岡江幸広がデビューから手綱を取ってきた。
ビゼンニシキは2歳時に2戦2勝、年明けて共同通信杯を勝利している。
シンボリルドルフも2歳時2戦2勝、サウジアラビアロイヤルカップを制してから軽い足元の不安があり大事を取って休養、これが年明け初戦だった。
弥生賞でその2頭が対決、岡江がどちらに乗るかが注目されたが、選んだのはシンボリルドルフのほう。
ビゼンニシキには岡江の3歳下で中堅の実力派・蛯原誠一が騎乗することになった。


レースはシンボリルドルフの勝利に終わった。
着差は1馬身と3/4馬身差。そこまでの大差ではないが、鞭を使って懸命に蛯原が追ったビゼンニシキに対しシンボリルドルフ鞍上の岡江は軽く追っただけで突き放した。
レース後ビゼンニシキ陣営は皐月賞までの間にもう一走、スプリングステークスを使うとコメントした。

「ちょっと使い過ぎじゃないかしらね」

夏菜はそんな陣営コメントを聞いて、苦言を漏らした。
もちろん自分の馬ではないからそんなことを言っても何も変わらないのだが、本番のGTレースの前に使い過ぎるのは賛同しかねるのだ。
シンボリルドルフはもちろんここから皐月賞を目指す。

「いつかシンボリルドルフみたいな強い馬を作りたいわね」
「うん、がんばろー。私もお手伝いするからね」

可愛く意気込む莉夏に夏菜は勇気をもらいながら愛娘をまた優しく撫でるのだった。




5月の半ば、牧場に嬉しい知らせがやってきた。
夏菜にとっては電話越しだったが、その知らせは何度聞いても嬉しさの残るものだった。
夏菜の夫、早乙女拓馬に日本ダービーの騎乗依頼が舞い込んできたのだ。
そのため依頼を即座に引き受けた拓馬から舞い上がったような電話報告がやってきたのは、娘の莉夏や牧場スタッフにもすぐにわかるものであった。

騎乗する馬はフルゲート18頭の下から数えたほうが早いような単勝人気順だろうが、拓馬にとっては自身のダービー初騎乗ということもあり選ばれし18人になった、という思いのほうが強かった。

日本ダービーは、イギリスダービーが祖となるレースでありホースマンなら最も目指す名誉である。
距離も東京芝2400mで行われ、チャンピオンを決めるのには一番相応しいのであった。
今までに勝った馬は名を残す馬も多いが、ダービー以降はレースに出られない程極限に仕上げられる。
それほどジョッキー、馬主、牧場関係者、調教師、厩務員は3歳馬にはこのレースを目標とさせるために力を尽くす。
世界各国のダービーも日本と同じように、名誉、地位、賞金を巡って争う事が多い。
例え、最下位でも18番目に強い3歳馬とその馬に乗った騎手という想いがあるのだろう。

そして、日本ダービーに限ってはこういう格言があった。
     
“ダービーは一番運がある馬が勝つ”という格言が。
     
ガチガチの一番人気の馬がプレッシャーによって負けたりするので、それを揶揄してこの格言が生まれた。
運がよければ優勝を掻っ攫う事が出来るのだから。

因みに皐月賞は一番速い馬、菊花賞は一番強い馬が勝つと云われている。

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