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見果てぬ夢を追いかけて
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見果てぬ夢を追いかけて 2

シトシト、と雨が降る中で葬式はしめやかに行なわれていた。
2頭の牝馬もお世話してもらっていた人物が亡くなったのが分かるのか、嘶いている。
 
「夏菜、本当に引き継ぐ気?」
 
芯が強そうな女性が、傘を差さずに放牧地を駆けまわる二頭の繁殖牝馬を眺めている女性―早乙女夏菜に声を掛ける。
 
「ええ、父さんが遺した物ですから」
 
1頭の牝馬は夏菜のもとに駆け寄ってくる。
夏菜は軽く微笑みながら、馬の流星から鼻にかけて撫でる。
 
「はぁ、止めても無駄なのは分かっていたけど」
「わたしの事は分かっていますよね。姉さん?」
 
姉さんと呼ばれた女性―桜木真奈は乱雑に切られたショートヘアの後ろ髪を弄りながら頷いていた。
暫らく、沈黙が続いていると子供が二人駆け寄ってきて、それぞれ馬に触ろうとしている。
柵に昇られると危険なので、真奈と夏菜はそれぞれ自分の子供を抱き上げて馬に触らせる。

「莉夏ちゃんの事は良いのか?」
「……わたしのエゴですけど、莉夏を巻き込んでまでやりたいと思っています」
 
それだけを言うと夏菜は莉夏を下ろして、2頭の牝馬を厩舎に戻しに行った。
その場に残ったのは真奈だけで、由真と莉夏は夏菜の後をトコトコと付いて行った。
真奈は草が濡れた匂いを吸い込みながら、灰色の空を眺める。

「ああ見えて夏菜は負けず嫌いだし、意地の強い子だからな…見守ってやるのも悪くはないかな」

そう言って嘆息する真奈だが、その頬は吊り上がっていた。



―牧場を引き継いだ夏菜ではあったが、さっそく業務の問題が出てきた。
特に資金のやり繰りが厳しいのだ。
中小牧場とはいえ、地方馬主の資格を持っていた父の馬は5頭も走っており、いずれもそこそこ走っていた。
勝ちはなかなか無くても、入着によって雀の涙程度だが稼ぎにはなっていた。
だが、父の名義で走っていたので馬主名義を変更しなくてはならない。
許可が下りるまで、牧場に放牧に出すことにしたのだが、それまでに稼ぎがあまり出ないのだ。

拓馬がレースに勝たなくとも8着までに入れば5%の進上金が貰え、さらに騎乗手当と騎手奨励手当が貰える。
当面はこの進上金が牧場と家族を養う物となるだろう。
夏菜としては早めに許可を得て、レースという名の戦場に馬を戻したかった思いもある。
けれど、焦っても無駄なのでゆっくりと構えるしか無かった。
この事を莉夏に悟られないようにしながら経営するのは、困難である事を夏菜は今さらだが実感をした。
 
「いつかGT馬を出すまで、頑張りますか」
 
夏菜は収入帳の隅に小さく目標としてGT馬を生産する事と記した。

夏菜は収入帳を棚に戻して、厩舎で馬の世話をやっている莉夏の元に向かう。
少しだけ残っている雪を踏みしめながら、夏菜はコートの襟で口元を覆い厩舎に辿り着く。
やや暖かくなっているとは言え北海道ではまだこの季節ではコートは必要であった。
ガラガラと重厚な木製の戸は小さな音をたてて開くと、莉夏はひょっこりと馬と同調して馬房から顔を出している。
 
「莉夏、戻って良いわよ」
「うん、お母さんも頑張ってね」
 
一言だけ返事をすると、莉夏は壁に掛けてあるコートを背伸びしながら取って家に向かって行った。
さて、と呟いて寝藁を取り替える為に乾燥させてある藁を運ぶ。
これをやると身体からは汗が噴き出し、身体が熱くなってくるので冬では後で汗を拭かないと風邪をひいてしまう。
一つの馬房に大体15分程で終わらせて、繁殖牝馬を含めて7頭分の馬房を綺麗にする。
 

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