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飛剣跳刀
その他リレー小説 - ファンタジー

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飛剣跳刀 9

「ねえ、じゃあ、その楽ってなに?」
 秘密めかした小声に、興味しんしんといった響きがある。最初からこう、年相応な反応であればいいのに、と思いつつ、飛衛は答えた。
「さる大身に、その爺いの家系が代々伝授してきておったものでな、それを伝えられるのが、当世ではあの爺い一人。…と、いうのに、爺さん、とんっでもない楽器マニアでな、このシャリビアに珍しい楽器があると聞くや、伝授もほっぽって一目散だ」
「あら、別にいいと思うけど。やりたい事をやめてまで伝授しないといけないほど、その楽が大したものだっていうの?…でも、大したものだっていうなら、自然演奏する人の才能だって選ぶはずだわ。たかが家系で伝授なんかできるもんじゃないはずよ。やっぱり、楽そのものは大したことはなくて…」
「そんなこと、聴いた奴がほとんどおらんのに分かるか」
「だから、理由も一緒に話してるじゃない。そもそも少し考えればわかることでしょ?」
「いや」
 と、飛衛は首をふって、
「考えても、わからんことはあるぞ。…その楽とやらが、本当にあるのかどうか、とかな」
 それまで黙って聞いていたティンバロが、思わず「えっ」と声をあげる。
「そんな、ばかな」
「黙ってなさいよ、この変態!その化粧落としかけの気色悪い顔をせめてどうにかしてから話せば?」
「へいへい」
 と、返事はしたが、彼女をからかうのをやめるつもりなど、ティンバロにはてんでない。だが、本気で怒らせるつもりもなかったから、様子を窺いつつ軽口をたたいておくつもりだ。
「つまりだな」
 飛衛が話を続ける。
「楽がほんとにあるのかどうか、というのは…伝授されるほうは形式だけで十分だから、まあごく簡単にでも手解きをうけて伝授でござい、ということも出来る。伝授するほうは、いわゆる秘楽というやつだ、自分だけにしか分からんことを誤魔化すのは簡単だから、ボンクラ弟子に飽々すれば、いくらでも誤魔化せる」
「それで、どんどん楽は偽物同然のものになって、本物の楽はどこにも存在しない?」
「ま、推測だが」

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