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魔術狩りを始めよう
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魔術狩りを始めよう 37

 しかしまだ男の攻めは止まってはいない。
 重心を揺らされたところに、体勢を立て直す暇もなく再び蹴りが入る。
 これも腕で受けたが、予想していたよりも回転が迅い。
 普通の人間が当ててから構え直しまでにかかるのと同じ程度の時間で、男は初撃、引き戻し、そして次の一撃までもこなした。さらに速度だけでなく、一発ごとにしっかりと体重を乗せていることからも練熟の度合いが解る。
 コースが単調なのが救いだが、二度の連撃で完全に姿勢を崩されたところに、さらにもう一撃。
 もはやこらえきれずに吹き飛ばされる。
 硬いアスファルトに背中から激突するが、なんとか受け身をとり、息はすべて吐き出していた。
 痛みはあるが動けないほどではない。肺の中に空気が戻れば動ける。
 だが、
「――っあああああ!」
 四発目。
 三連の蹴撃で態勢を崩して隙を作り、距離が空いたところに大気斬撃。一気に仕留めるつもりだ。
 空気が震える。今から避けようとしても間に合わない。そして直撃ならば、生身の人間くらい簡単に切り刻めるだろう。
 ……だったら。
 御刻は深呼吸して酸素を肺に取り込みながら、素早く起き上がった。
 後退したことで、弾き飛ばされたフツノに近づいたはずだ。
 視界の隅に街灯の光を反射するフツノを確認して、そちらへ駆ける。
 フツノの力を知らない男は御刻を止めようとはしなかった。刀一本、気にすることではないと。
 ……間に合うか?
 幸い、範囲を広げているためか発動が遅い。あと三歩は行けるが、それでも危険な綱渡りだ。
 二歩でたどり着きフツノを拾い上げ、だが構えた御刻は見た。
「――――っ!」
 予想よりも早く揺らぎが破裂。周囲の空気すべてが裂かれて不可視の刄が形づくられた。
 ……しまった!
 次の瞬間、全身に個所の区別なく細かな裂傷が幾筋も走った。
 その傷口から舞った鮮血も細分され、霧のようになって散る。
 まだ浅いが、時間に比例して傷が深くなっていく。
「っぁ……!」
 苦痛に声を漏らし、しかしフツノを握る手から力が抜けることはない。
 死ぬわけにはいかない。
 その想いだけで御刻はフツノを振るう。
 淡く白い輝きを放ち始めた刃を、渾身の力をこめて眼前の空間に叩きつけた。
「ぁあ――――っ!」
 叫びに呼応するようにフツノから放たれる光量が増す。
 振りぬく。
 フツノの輝きがひと際強くなると、不可視の刃を切り裂いた。
 一瞬で真空がかき消されて、すべて無かったことにされる。
 禁忌の書から得た力をフツノで絶ち、その力によって歪ませられた空間を正したのだ。
「――!」
 今まで軽薄な笑みの張り付いた男の顔に、驚きの表情が浮かぶ。
 予想外の出来事だったのか男に隙ができたが、こちらも切り札を見せてしまった。いったん距離を取られ仕切り直されたら勝ち目は無い。
 この好機を逃したら、一撃を入れるチャンスはもう無いと思ったほうがいいだろう。

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