魔術狩りを始めよう 27
部室にきてからテンションが下降の一途をたどる若月に対し、観崎は分かりやすいほどに楽しそうだ。嫌味なくらいにこやかな笑顔を見て、これから先もこのノリについていけるか不安になった。
しかし、いつまで付き合わなくてはいけないのかは向こうの働きに懸かっているのだ。しかもいまだ逃亡中の殺人犯が捕まれば解決という訳でもない。下手をすればかなりの長丁場になることも考えられる。
だから早く慣れよう、身が保たない。若月は独り心の中で強く誓った。
「さて、と。なごり惜しいが親睦を深めるための交流はこれくらいにしておこうか。時間は無限かも知れないけれど、我々は有限だからね。――それで昨夜はどうだったかな?」
果たして本当にこんな会話が、親睦を深めるのに役立ったのだろうか。
何か釈然としないものを感じつつ、観崎の表情からふざけた態度が消えたように見えたため、若月は疑念から報告へと思考を切り替える。そのために、
……気にするな俺、気にしちゃいけない。
そう三回繰り返し、ひと息を入れて切り替えはなんとか完了。
一連の『交流』によりあまり時間が残っていない事もあり、至極簡潔に昨夜の出来事を伝えた。
「−−つまりキミは彼女の理知的な美しさがどうしても頭から離れず、悶々と青き欲望のままに猛っている、と……」
「言ってません」
的外れも甚だしい言葉にすかさずツッコミが入る。
「冗談だよ−−しかし、中々どうしてキミのツッコミにもキレが出てきたな。良い傾向だと思うぞ」
「……多分先輩の御蔭ですね」
無駄なのはわかっている。それでも若月はこの期に及んでの観崎の態度に皮肉を込めて返す。
「むう。流石の私もそう正面切って礼を言われては少々照れる−−まあそれはそれとして、だ。私はやはりそのお守りが鍵になると思うのだが−−」
「今は僕の手元にありませんよ」
案の定皮肉は通じなかったが、御崎の表情から再びふざけた物が消えた−−様に見えた為、余計な事は言わずに後半の言葉にだけ答える若月。
「ああ、それが本件に於いて実に厄介な点だよ−−まあ無い物は仕方が無いさ。キミは中身に心当たりは−−」
「無いからここに来てるんです」
でなきゃ自分から先輩なんかに−−という言葉は当然胸にしまわれた。
「…そういえば」
「ん、何か思い出したかね?」
ずいいっと身を乗り出す観崎。必然的に2人の距離は近くなる。唇と唇、目と目と手と手…
「神様は何も禁止なんかしてない、って? 生憎私は年下のオトコノコには」
「勝手に人の心中にナレーションを入れないで下さい…じゃなくって」
一つ深呼吸。
「あの女性、誰なんです? 確か『その筋のヒト』って…」