迷宮の 13
次に入った部屋は、一言で言うと“あたり”だった。この部屋は蝋燭部屋の次の次、そんなに遠くはなかった。
六畳程の部屋にベッドが一つ。その上には翠に輝く“石”があった。
「僕の経験上この色は“あたり”。という訳で……」
アサミは“石”を手でどけると、ベッドに倒れこんでしまった。このまま眠れば、最低後八十時間は問題無く活動できるだろう。
「イツリも寝とけば……」
ややむにゃむにゃした口調でアサミが言う。
しかしベッドは一つである。
何と不健全なと言いたい所だが、二割の彼等には関係無いのだろう。
イツリはアサミが無視した翠の“石”をしまい、アサミの隣に寝た。
がしかし。
「近い。暑苦しい」
ベッドは狭かった。幾ら二割でも、他人と必要以上に近付くのは不快である事に変わりは無い。
「やっぱ交替で寝よ……適当に外うろついてて」
アサミは持っていた鉛筆の中から、一番短い物を選びイツリに手渡した。
「今から八時間程待つ……まあ眠る。起きた時に帰ってなかったら鉛筆の後辿るから」
とんでもない案だ。しかしイツリは了承した。
「私はまだ全然眠くないから。じゃ、おやすみ」
「ん…」
イツリが部屋を後にした時、もう既にアサミの意識は無かった。
「さて」
アサミが眠る部屋の扉をでたすぐのところに、鉛筆で向かう方向に矢印を書き、イツリはその方向へ歩き出す。
いくつかの扉を過ぎ、ある扉の前でイツリは止まった。
特に気に止めるなにかがあったワケではない。全くのカンである。イツリは扉の横にアサミに向けた印を残して、扉を開けた。
「わあ……、なにこれ」
扉を開けてすぐに、イツリは異様な部屋の雰囲気に唖然となった。扉は手を離すと勝手に閉まり、部屋全体が密閉空間となる。
部屋は、一面が光に包まれたように真っ白だった。壁や天井はもちろん、床も影のない綺麗な白で統一されている。
そして、よく見ると部屋の中にはいろいろなものが散乱していた。
壁には白いワイシャツがかけられていて、その下にもかけそこねたように同じワイシャツがくしゃくしゃになって落ちている。