All right 23
全校が祭りの準備に余念が無いはずの今、それでも奇妙なほどに静かであるのはなぜか。
そのことに気付き、悟は奥歯を強く噛んだ。
犯人の異能はどんなものか解らないが、それはつまり、何が起こってもおかしくはないということでもある。
異能の効果は各人により千差万別。この広い天陽学園、このようなことができる者もいるだろう。
実際にどこにも人がいないのか、悟が認識できないだけで存在するのかは解らないが、とにかく人の気配が無くなったのは何かしらの力を使われたとしか考えられなかった。
「悟!!」
だが、その静寂を破るように声が響いた。
はっ、として悟は声の聞こえた方へと振り向く。その目に映ったのは、
「明希……」
「……探したよ?」
すぐに駆け寄ってきて弱々しく笑った。しかしすぐに両ひざに手を突いて、軽く表情を歪めた。心なしか顔色も悪い気がする。
まさか、と最悪の状況が頭をかすめ、全身の血が冷えるような感覚が悟を襲った。
「おい大丈夫か!?」
「平気だよ。ほら、ちょっと走ったからさ、息がきつかっただけ」
「ちょっと、って……」
明希の胸の病は確かに異能で抑えられてはいるが、それでも完全に常人と同じではない。
異能で血液をめぐらせることはできるが、できるのはそれだけだ。
病を治癒するのでも、心臓への負担を取り除いているのでもない。
臓器そのものは昔と変わらないのだ。
運動をすれば当然、心臓は血液を全身に送り出そうと活発になるが、血流の量が異能で操りきれる枠を超えれば、それはそのまま心臓に無理をさせることになる。
さらに異能は精神状態に効力を大きく左右される。不安だったりすれば力は弱まり、心臓への負担は増えるのだ。
そこに今回の脅迫状事件だ。刻一刻と不安が増しているはずの今の明希は激しい運動は禁物だと、本人も自覚しているはず。
「何で――!」
明希は困惑する悟の手を握り、弱々しく呟いた。
「……悟は、一人じゃ……ない、でしょ?」
「−−!!」
悟が動揺したのが握り締めた手から伝わってきて、明希は思わず手を握る力を強める。
そして、再びその言葉を言った。
今度は悟の瞳を見据えながら。
「悟は、一人じゃ、ないよ」