All right 22
それは悟たちにしかできないこと。代わりなんてどこにもいない。
他人に誇れなくとも、自分には誇ってもいいはずのことだ。
だからこそ、自分が早く見つけなくては。そして大丈夫だと伝えよう。
すぐに素直にはならないだろうけれど、きっと悟なら解ってくれるはずだ。そしたら不安も卑下も何もかも、一緒に向き合っていけるだろう。
……だから私も。
しっかりしよう。意地っ張りの頑固者が、それでも弱いところを見せてもいいと思えるくらいに。今はまだ頼りなくとも、きっといつか。
「――待っていてね」
明希は顔を上げ、止まっていた歩みを確かな足取りで再開。
一、二歩と、もう止まることは考えない。
この先がどうなるかは解らないが、それでも今は悟の所へと行こう。
はやる気持ちで、次第に駆け足になる。
少しでも早くたどり付けるように、少しでも早く大丈夫だと伝えられるようにと。
その後で、また再びやり直そう。
不安への対処や足りない部分への補いも、まずはすべてを認めなくては始まらない。
だからより良くなるために、すべてに向き合いに行くのだ。
明希は確かな意志を持って、前へと駆けた。
静寂。その一語に支配された校舎の中を、悟はおぼつかない足取りで歩いていた。
皆のところへ行かなくてはいけない、明希のもとへ戻らなくてはいけない。その想いが歩を進めさせ、しかしどんな顔をして皆に会えば良いのか解らずに、足が重くなる。
それでも止まることはない。
決して早くはないが、少しずつでも確実に目指す場所へと進んでいく。
悟はぼんやりと、周囲に人がいなくてよかったなと思った。
静まり返った廊下を独りで歩いていると、少しだけ頭が冷えて、しっかりできるような気がした。
そんなことを考えながら何となく窓の外へ目をやった。眼下に見える中庭も今は閑散として、植え込みの樹の葉が風にそよいでいるだけだ。硝子越しにはその音も聞こえない。
無意識に吐息。視線を戻した廊下にも見える範囲に人影はない。
仲間からも離れ、周囲に喧騒はなく、今の自分は本当に孤立しているのだと思った。
それが自分のせいであることは知っているが、やはり辛かった。静けさは気持ちを冷却する期間を作ってくれたが、逆に己の孤独を浮き彫りにして、周りに誰もいないということを痛感させられもした。
しかしこうしている間にも仲間の誰かが犯人に狙われているのだ。
もし止められず、脅迫状に記された時がくれば明希が危険になる。他の者の触媒を盗まれるのも避けたいが、何より明希の場合は命が関わっているため、それだけは絶対に阻止しなければならない。
「――期限は祭りの陽が墜ちるまで、か……」
文化祭の開始まで、もうあとわずかだ。祭りの準備に追われる皆は、このような事態が起こっているなど夢にも――。
「っ!?」
はっ、と顔を上げる。
焦りを帯びた表情で周囲や窓の外を見回すが、動くものはない。