All right 24
握られた手から伝わる温もりが、確かにそこにある優しい笑みが、悟の心をかき乱す。
明希の言葉が単なるなぐさめや上辺だけのものではなく、本心だということはよく解っていた。形だけだったり甘く温いだけの言葉など、今の悟には何の意味もないことを明希は知っているからだ。
だからこそ、辛い。
この状況で明希自身も決して不安が無かったわけではないはずなのに、これだけ悟のことを考えてくれていたのだ。
対して自分は勝手な感情で事実に向き合うことをやめ、裏切りと取れるようなこともした。
そんな自分は、この言葉を受け取る資格があるのだろうか。明希が許してくれたからといって、それを甘受していいのだろうか。
悟にはその答えの行き着く先は解らない。
「……っ」
何か答えなくてはと思っても言葉は生まれず、ただ出口を無くした想いだけが重く黒い固まりとなって、悟の胸の内に幾重にも幾重にも折り重なっていく。
悟にはそれをどうすることもできず、今は視線を逸らして沈黙を返事にするしかなかった。
「……」
そんな悟を明希は不安そうに見つめていたが、不意に握っていたその手をほどいた。
ついに愛想を尽かされてしまったのだろうかと考えて、そのことに軽い驚きを感じている自分に気が付いた。
それが当たり前、こんな状況でもまだ明希はそばにいてくれると、そんな根拠の無い希望を持ってたなんて、思い上がりもいいとこだよな、と心の中で自嘲的につぶやく。
掛け値なしの優しさにも答えられないようなダメなやつには、ふさわしい対応だ。
だが悟の耳に届いた明希の声は、予想とは違う響きで放たれた。
「悟――」
はっきりと、静かだがいつものように力強さがある声だ。さっきまでの儚さはもうない。
「ごめんね」
え? と、いきなりの謝罪の言葉に疑問符を浮かべた瞬間、右頬で何かが弾けたような感触を得て、高い音が聞こえた。
最初はしびれるような感覚だったものが遅れて痛みになり、ようやく明希に頬を叩かれたのだということを理解。
いきなりすぎて、訳も解らないまま顔を上げれば、意志のこもった瞳がまっすぐに悟を見据えていた。
その表情を見て、悟はひとつの疑問を得る。
何故、と。
「いきなり叩いたりしてごめんね。でもさっきのこと私はもう気にしてないよ。だから悟が気にする必要なんて無いの」
……悪いのは全部俺のはずなのに……。
「今の悟のこと、見てられないよ。さっきのこと悩んでるんでしょ」
強く、しっかりと、目の前の悟から視線を外すこともなく、
「悪いほうに考えなくてもいいんだよ。悟がいてくれただけで私、すっごく嬉しかったもん」
揺らぎなく、
「……悟は、本当は強いんだよね。ずっと見てたから解るよ。私、それに勇気づけられてきた」
何かをこらえるように顔を歪め、
「だから、お願いだから、いつまでもそんな顔してないでよっ……!」
泣きそうな顔で、明希はそう言った。