All right 37
はやる気持ちが顔に出たのだろうか、冬は言葉を切って、
「っと、何か急いでたんだっけか。引き止めちゃったな」
「ううん、そんなことないよ。こっちこそ準備の邪魔しちゃったみたいでゴメンね」
「あー、いいって。大まかな配置はほとんど終わってるし、後は細かい調整くらいだからさ」
「そうなの? じゃあ本番楽しみにしてるね」
「ああ。そのときは全力で歓迎するから、心の準備はしといたほうがいいぞ? 悟も、な」
……何だろうか、その含みのある笑顔は?
さらに意味深な目配せまでしてきたが、あえて無視した。
どうやら本格的に勘違いしているようだ。しかも楽しそう。
別に冬は悪意があるわけではないだろうが、いい気分はしない。早いうちに勘違いを正さなくては、と誓った。
だいたい人のことを気にする前に、自分の方をどうにかした方がいいのではないか、こいつの場合は。そういうものに疎い悟から見ても奥手だと感じるのだから。
そんな様々な思いをこめた悟のため息を聞いて、冬は肩をすくめた。
「素直じゃないな。ま、いいけど。じゃあそろそろ作業に戻るわ。ゆっくりやってると内装班に怒られるしさ。またな、ふたりとも」
「うん、またね」
冬は明希と和やかにあいさつしたあと、悟に向けてにやりと笑いながら親指を立てた。何が言いたいのだろう。知りたくない予感はする。
勘違いしっぱなしの友人の不要な応援は適当にスルーし、さっさと行けと手振りで伝える。
誤解はあとでしっかり解こうと心に決めると、冬が教室に入っていくのを見届け歩きだした。
明希もすぐ隣を歩きながら、悟の表情を覗き込むようにしながら、
「ねえねえ、ちょっと聞いていい?」
「ん、どうした?」
「冬くんと何の話をしてたの? こっち見てたみたいだけど」