All right 18
「確かに、ね。でもどう考えても情報が少なすぎるわ。あんな手紙から犯人を絞れたら、それこそ名探偵じゃない」
「私たちの能力じゃあ特定もできそうにないし……」
そう言って明希はブローチにそっと触れた。
瞬間移動に流動操作、そして半自動の高速書記。どれも人知を超えた技能ではあるが、今は無用の長物。異能とは全般的に一芸特出の色が強いため、活用できる範囲は限定的だ。
そしてこれ以上の増員が望めないからには、今ある技能でやりくりしなければならない。
茜もそれは分かっている。だからため息をついて悟の方を見やり、
「応用の利きそうな能力持ちの誰かさんもいるけど、頭のほうが足りなくて活用できてないしねっ」
「……うるさいな。だったらお前が代わりに活用法を考えてみろよっ」
「うっ、あたしはほら、足で稼ぐ派だからさ。あ、あははは」
「そんこと言って、稼げてないんだから結局は役立たずじゃないか……」
明後日の方向を向きながら悟がつぶやいたひと言を茜は聞き逃さなかった。
実際、最初は頭脳労働では活躍できないぶんを裏役で補おう、と気合いを入れていたのに、今の自分は目に見えて無力すぎる。それどころか、悟のように明希を勇気づけることもできはしない。
自分でもそのことを悩んではいたけれど、それを改めて他人――、それも普段はからかいの対象であり、今は確実に自分よりも重要な役を担っている悟に言われたと思うと、急激に腹が立ち、
「――っ、何よその言い草はっ。あんたなんかよりはぜーったいに役に立ってるわよ!」
気が付いたら悟に食って掛かっていた。
「はっ? どこがだよ!?」
応対するように悟の語気も荒くなる。いつになく苛立った表情だ。
「ちょ、ちょっと、ほら、二人とも少し落ち着こ。ねっ?」
さくらが険悪な空気を察して止めに入り、視界の隅で明希が慌てたような表情を浮かべている。
うわ、ヤバい。茜はそう思ったが熱くなった頭では思考を止められず、さらなる応戦を選んだ。
「全部よ全部っ。あんたなんていなくても――!!」
最後まで言い終わらないうちに悟の顔が強ばる。
「ちょっと茜ッ!?」
「あっ……」
さくらに強く肩を掴まれようやく落ち着いた。
気が付けばその場にいる皆は沈黙していたが、緊張を含んだ空気がわずかに震えている。
それを認識し、あ、と思う同時に頭の芯が急速に冷えていく感覚を得て、狭まっていた視界がクリアになっていく。
見えなかったものが、見えてくる。
明希は驚きと心配を含んだ表情で固まり、さくらは焦燥を含んでこちらを見ている。そしてうつむいた悟とこちらを交互に見ながらオロオロとしている流。
……あっ。
これが自分の言葉が作り出した結果だ。
うつむく悟を見て茜は思う。なぜ気が付かなかったのだろう。悟も自分と同じくらい、いや、その想いを考えれば茜よりもさらに己の無力さを感じていたはずだ。
明希を助けたい、この場にいる誰よりもそう思っているのは、この少年なのだから。それなのに。
……あたしが勝手に劣等感を抱いて。
力がないことが悔しかった、恥ずかしかった。それ以上に悔やんでいる者がいるとも考えずに。
そんなことも分からずに口にした言葉は、いったい何を貫いたか。
「……っ」