コトノハ〜KIYOMARO&MEGUMI〜 5
彼はそう言って手を離す。その空間にどうしようもない淋しさと、不安がこみ上げてくる。
「離しちゃ、やだ」
子供みたいにすねて言ってみた。清麿くんは黙ったままだ。
(ちょっと調子に乗りすぎたかな?いくら夢でもワガママだよね…)
「なら…こうすればいいかな?よっ、と…」
急に立ち上がる清麿くん。その何秒か後にきた、包み込まれる感覚。気付いたら、清麿くんに後ろから抱き締められていた。
「え…ちょ、清麿くん…恥ずかしいんだけど」
「…ダメかな?」
ニコリと微笑む彼。あぁ…ダメだ。こんな笑顔見せられたら拒否できない。それに恥ずかしいけど嬉しい…。
「…ダメ、じゃない。もっと…ギュッとして?」
その一言で清麿くんの腕に力が込められた。それはもちろん痛くはなく、心地よい暖かさを私にくれる。こんなことを本物の清麿くんにされたら…私はきっと真っ赤になってしまう。
「痛くない?」
私は答える代りに彼の瞳を見つめ、そしてゆっくり瞼を閉じた。女の子がその瞬間求めていることは只一つ。
ゆっくりと、でも確実に清麿くんが近付いてくるのが気配でわかる。頭の後ろと頬に手が添えられた。
ここから先に言葉なんていらない。お互いの想いを唇にのせて伝えるだけ…。
後10cm…7cm…5cm…3cm…くる!
『ピピピピ…ピピピピ…ピピピピ』
カチッ。乱暴にアラームのスイッチを切り、ソレを持ち上げた。
「…また中途半端に終わらせて!私になんか怨みでもあるの!?」
上半身のバネを最大限に活用し、その反動を右腕に集中させる。そして、その威力を殺さないように壁に時計を叩きつける!
ガシャン!!パリッ!!
「…フゥ。スッキリしたわ…」
コロコロと、時計だった物の残骸が転がってくる。それすらも蹴り散らし、リビングへ向かった。
「恵…今すごい音したけど…どうかしたの?」
リビングに入った時のティオの第一声。