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パニックスクール
恋愛リレー小説 - ラブコメ

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パニックスクール 43

「あー、『黒鱒』つー料亭に行ってる」
げんなりと声にいつもの元気さが入らずに答える洋平。
「なにぃ!!黒鱒って言ったらあの政界の大物や要人が来店するという一級の刺身・生け作り料亭じゃねぇか!!」
肉屋の主人が驚いた声を上げる。
「けど、それほどの腕があるならなんで自分で料亭を持たないんだろうな。だんなは」
と野菜屋の主人が疑問を口に出す。
「確かに普段は傍若無人でこっちの都合もお構いなしの強引だけどよ、親父の魚捌きとか包丁運びとか尊敬しているし、認めてるよ。ずっと親父の背中見てきた俺が言うから間違いない」
普段は互いに軽口とはいえ貶しあっているが洋平も父親の腕は認めていた。
むしろ、自慢出来る父親でもあった。
軽口で貶し合っても洋平と玄太郎の口喧嘩は言わば親子の会話みたいなもんだった。
自分の父親の良い所を臆せずに言う洋平は絵美にはどんな宝石よりも輝いて見えた。
「でも、母さんが言うには『気ままに魚捌いて売って、近所の人と世間話する方が俺には性にあってら』だってさ」
「ちげぇねぇ!!」
肉屋の主人が玄太郎らしい言葉に同意する。
「今日は嫁さん候補の看板娘もいるし、若旦那も忙しいだろ?」
と野菜屋の主人が絵美を見ながら言う。
言われた絵美は照れて頬を真っ赤に染める。
「おっちゃん、頼むから混ぜっ返さないでよ」
もうすぐ昼になる魚崎商店の店先にどっと笑い声と笑顔が咲いた。
「でも実際、このカワイコちゃん俺は良いと思うけどな。」
肉屋の主人は半分絵美に言いながら洋平のおでこをグリグリとやる。
「だから……」
「お嬢ちゃんはどうなんだい?」
「もうやめてくださいよ。」
洋平は火消しに必死だ。話し掛けられた絵美は暫く俯いていたが
「……えっと……私は……もし魚崎君が……嫌じゃなかったら……その……」
全員が次の言葉を期待する。しかし、
「あんた〜何やってんのさ!」
肉屋のお上さんの声が飛ぶ。
「ちっ、良いトコだったのに。」
肉屋の主人はしぶしぶと戻っていく。
やれやれと思って洋平と絵美が見送っていると帽子を深めに被った見たことのある女性が店の前を通り過ぎた。
「何やってんだよ、菫姉さん」
声を掛けると女性がギクッと全身が跳ね上がる。
暫く、あたふたしていたがやがて観念したのか帽子を取る。
思った通り菫だった。
「そのね……綾奈、ちゃんと出来るかなと心配して」
「だから尾行してたと。大丈夫だよ、あの子ならちゃんと出来るって。それに、菫姉さんの子供じゃないか」

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