パニックスクール 37
それまで気が付かないほど集中していた女子生徒はいつの間に洋平がいたのかと驚く様子を見せた。
「わりぃ、驚かせたか?あまりにも綺麗な歌声だったからさ、ちょっと感動しちまった」
「綺麗だなんて……そんな事ないです。それに最近、調子悪くて」
「いやいや、謙遜する事ないって。これで調子悪いってどんだけだよ」
と笑いながら洋平は女子生徒を褒めた。褒められた事に照れて笑う女子生徒。
「調子が悪いって言うけど、どこか痛めているの?例えば、喉とか」
「………ええ、そんな所です」
顔を伏せがちにして、やや間を置いて答える女子生徒。
まるで何かを隠しているような後ろめたさが洋平は気になった。
「気をつけなよ。季節の変わり目だし、風邪引かないようにね」
けど、洋平はあえてそれに気付かない風に装う。
「そうですね。体調管理とか気をつけないといけないですね」
「健康第一っていうしな」
にかっと笑顔を見せる洋平にちょっと暗い雰囲気だった女子生徒も釣られて微笑む。
「俺、2−Dの魚崎 洋平ってんだ。よろしく」
「2−Bの柏原 深美です。なんで自己紹介を?」
「いいもん聞かせてもらった礼だよ。それに話しをした時点で知り合いだろ?」
「そうね」
それから、洋平と深美はたあいない雑談をして時間を潰した。
最後まで彼女が人気女子高生歌手『柏木 望』とは知らずに。
「あ、もうそろそろ時間だな。じゃあまた……」
「ねえ魚崎クン?」
「ん?」
「魚崎君も何か困ってることあるんじゃない?」
「え……あ……いや……」
「ふふ、無理には聞かないわ。」
芸能活動で人の心を読むことに長けていた深美は洋平の心を容易に読み取った。
「あ……あぁ。ありがとな。」
それだけ言うと洋平は足早に教室へと戻っていった。
ガラッ
「わっ!」
「キャッ!」
洋平は教室の戸を空けた瞬間誰かと当たりそうになり、とっさによける。
「ゴメン、大丈夫か?」
「ええ、そっちこそ大丈夫……って洋平?」
「うわっ!お、お前山根かよ!」
「なぁによその態度!朝から!!」
チョークスリーパーを見舞う山根。
流石に今朝から避けるように接する洋平に怒りを感じたらしい。
「やめっ……お前……く…くるし……」
「何してるの?」
そこへやって来たのは里奈であった。