「だ、だいじょ……」
俺が「大丈夫？」と聞こうとした瞬間、美弥は立ち上がると香織の方を睨み鬼の様な形相でズンズンと歩いていく。
「ちょっと！　いきなり何をするの香織っ！！」
「いやぁ、ちょっとした手違いだってば」
美弥の剣幕に対し、香織は悪怯れた様子もなく悪い悪いと言いながら笑っている。
「あなたみたいな脳まで筋肉で出来てる女性がそんな訳ないでしょ！　人の死角からボールを投げ付けるなんてよほど私に喧嘩を売りたいようねっ」
「あのボールを避けられなかったのはあんたが運動音痴なだけじゃないの？」

「なぁんですってぇー！！　今、何て言いました」
「運・動・音・痴♪」
ニヤニヤ笑いながら煽る香織に乗せられて美弥が次第にヒートアップしていく。
もう一触即発の状態の香織と美弥が睨み合いをし、誰もが固唾を飲む中で一人、二人の間に入る女子がいた。
「じゃあ、勝負しましょう♪」
いきなり二人を焚き付けたのは信じられないが、争い事が嫌いな智香だった。
香織と美弥が信じられないって顔できょとんとしているが、どうやらここにいるみんなが同じ思いらしく、全員が同じ表情をしていた。

「ちょ……ちょっと、智香！？」
「相沢さん？　あなた何を……」
香織と美弥は智香の真意が掴めず智香に話し掛けようとしたが、二人を気にせず智香は話を続けた。
「このままじゃいつ取っ組み合いのケンカになるかわからないでしょ。それに美弥ちゃんはタレントさんだし、それ以前に二人共女の子なんだから、顔にケガしたら大変なんだよ」
智香が……
あの二人に説教してる！？
最早、こんな光景が見れるなんて、俺はこれっぽっちも思わなかった。
「だから、平和的な方法で勝負しましょう」
唖然とする俺達を余所に智香は満面の笑みを見せていた。