心恋 21
「新庄すゎ〜んっ!!」
藤川くんのワントーンもツートーンも高くなった声でハッと我に返ると、既に新庄さんは男性職員たちに囲まれていた。
無意識に少し強張る頬の緊張を無理矢理解き、深呼吸をひとつ。
そしてゆっくりと新庄さんの方に歩み寄った。
「新庄さん、お久しぶり。元気してた?」
営業用スマイルって便利だと思いながら話しかけた。
彼女もとびきりのスマイルで人を掻き分け、私に一歩一歩近づいてきた。
「ユカコ先輩〜!」
そう猫撫で声を出しながら、私に抱きついてきた。そして、耳元で囁いた。
「大台に乗った気分はどうですかぁ?」
ーピキッ…
私の中のなにかが音をたてた。
きっと彼女は悪気はないのかもしれない。それでも、今の私には禁句。顔が引きつりそうになったので、視線を正面に移した。
矢野くんが、さも心配そうにこちらの様を見ている。目が合ったので私は頑張って笑顔を作った。
「やっとオトナの色気がつき始めたって感じかな〜」
不意に後ろからの声。ポンっと私の肩に手が置かれ、私は全身が熱くなるのを感じた。
「桧山さん…」
桧山さんは私の頭をナデナデすると書類を差し出し、コピーを100部頼んでデスクに戻って行った。
ゴウン ゴウン ゴウン…
機械音と共に、規則正しく吐き出される書類のコピー。
それを見つめながら思う。
もしあの後、私が何か言い返していたら……きっと、場の雰囲気は悪くなっていた。
(桧山さんは丸くおさめてくれたんだ……)
出来上がったコピーを持って行くと桧山さんはニッコリ笑い
「悪いね、来た早々にコピー頼んじゃって」
そう言ってまた私の頭を撫でた。
「いいえ…こちらこそありがとうございました。」