素直になれたら… 2
「なっ……何よ!悪いのはそっちじゃない。自業自得よ!」
あぁ……
またやってしまった。
別にこの男性が私の顔を覗き込んでなどいない事くらいわかっているのに。
昔から男勝りなあたし。
大学生になったら少しは女の子らしくしようと思っていたのに。
どうしていつもこうなるんだろう……。
もう引っ込みがつかなくなってしまった。
プイッと、顔を背ける私にその男性は
「何だぁ?この女……」
と、溜め息を一つ吐き出しながら前に向き直った。
すると、静まりかえっていた講堂もざわめきを取り戻す。
かわりに辺りから何やらヒソヒソと、小声で話すざわめきも心なしか増えた様に思えた。
すっかり居心地が悪くなってしまったあたしは、先程の睡魔もどこへやら。
この一件のおかげであたしは、残りの時間を笑顔を振り撒くことに費やすことになってしまった。
折角の憧れだったキャンパスライフをこんな事で台無しにはしたくなかったから。
ただ、気になったのは前の席のあの男の背中だった。
前を向けば必ず視界に飛込んでくるものだから、気にするなと言う方が無理でしょ?!
本当に色んな意味で居心地が悪いったらなかった。
お陰で講義が終わる頃には頬の筋肉が引き攣り、不気味とも言える笑顔を振り撒いているあたしがいた。
はぁ……
溜息ひとつ。
ふぅ……
溜息ふたつ。
誰かが言ってたけど、溜息付く度に幸せが逃げていくんだって。それでも口から零れる息をあたしは止めるコトが出来ない。大学に入った早々にこれじゃあ先が思いやられるよね……
べったりと机に張り付いて、あたしは激しく自己嫌悪に陥っていた。
「ねぇ、栞。なんでカエルみたいに机に張り付いてるワケ?」
授業が終わっても動く気にならなくて机にへばり付いているあたしに声を掛けてくる人がいる。
「奈菜美……」
どんよりとした顔で声のした方を見ると、そこには奈菜美がいた。
村瀬 奈菜美(むらせ ななみ)、同じ高校出身の……まぁ平たく言っちゃえば親友って奴?とにかく何でも話せる相手。
残念ながら、学科が違うから大学ではいつも一緒って訳にはいかないけど、それでもお昼とかは一緒に食べてる。